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2007年3月30日 (金)

寮歌のすすめ

 57回目のブログです。

 寒気団も去り、いよいよ暖かい春本番の雰囲気がただよい始めています。こう
いう時には、自然と歌を口ずさんだりしてしまいますが、口ずさむ歌にもいろいろ
あります。先週は、唱歌について書きましたが、今回は、歌のなかでも、おそらく
特殊な分類に入るであろうと思われる“寮歌”について書きたいと思います。

 寮歌は、旧制高等学校を中心とし、旧帝大予科、三商大・旅順工大予科などを
含め、約50校で歌われていたものです。言葉だけから判断すると、寮で歌われ
ていた歌、あるいは寮で作られた歌ということになりますが、実際には、広く、
      ・校歌
      ・寮歌
      ・記念祭歌
      ・部歌
      ・応援歌
      ・頌歌

を含んでおり、合わせると、2500曲から3000曲あると言われています。

 作詞、作曲は、現役学生のものがほとんどですが、なかには先輩OBのものも
あります。面白いことに、作曲には、作曲という表現しかありませんが、いわゆる
作詞には、「作歌」、「作詞」、「作詩」の三つの表現があります。わたしとしては、
何となく「作歌」という言い方に魅力を感じます。

 わたしが寮歌に関心をもち、意味、内容に難しさを感じながらも、口ずさみ始
めたのは、浪人の時であり、その時の、寮歌指導の先生は予備校の校長でした。
予備校は、名門「夕陽丘予備校」であり、その校長の名は、全国に名物校長の
名を轟かせた、夕陽丘予備校創設者の「白山桂三先生」です。

 白山先生は、東京帝国大学の国史のご出身でしたが、先生の正統なる学識、
該博なる知識、教育への迸る情熱は、わたし達生徒にも充分伝わってきました。
そういうお人柄のなかに、寮歌への指導があったのです。夕陽丘予備校には、
ハンディな寮歌集があり、それを手にしながら歌唱指導を受けたものです。

 その寮歌集には、白山校長の序が述べられていますので、ちょっと長くなります
が、ここに引用します。

  「青年は一国の宝なり。されば青年たるもの己が一身を私すべきにあらず。
  一世の風潮はその時の流行歌によってその一端を推し得。青年が如何なる
  歌を好むかによって一国の運命は計られるであろう。意気と熱との青年よ!
  汝はその鬱憤を大歌高吟にはらせ。而して惰弱なるものを去って雄勁なる
  ものを択べ。幸いにして旧制高校が残しておいた幾百幾千の寮歌がある。
  而も其等の学校は総て消滅した。今や校別に拘わる事なく、広く天下の粋を
  萃めて、本校に於いて之を開花せしめんとす。
  諸兄よ。此の一年を猛勉し給え。而して勉学の暇に、或は林間を逍遥して孤
  独を慰め、或は未来を夢見て浩然の気を養い、或は友と抱肩の楽しみを分
  かつ時、寮歌に優る妙薬あらんや、
寮歌は悲しき時の母ともなり、楽しき時
  の友ともなれば、いざや歌わん哉青春の譜を。」

 白山先生の、寮歌への愛情はもちろんのこと、青年若人への率直な激励、教育
へのほとばしる熱情が、手に取るように感じられます。

 先日のブログで、岡潔先生のことを書きましたが、岡潔先生も寮歌への関心は
高く、一高よりも三高を選んだのは、寮歌による校風を比較した上で、三高の方
がご自身の性に合うからそうしたと記しておられます。寮歌の影響はそれほど大
いものがあったということでしょうか。
 岡先生の比較された寮歌をみてみましょう。有名な寮歌ですね。

      ああ玉杯に花うけて
      緑酒に月の影宿し
      治安の夢に耽りたる
      栄華の巷低くみて
      向が岡そそりたつ
      五寮の健児意気高し
 (一高)

      紅燃ゆる丘の花
      早緑匂ふ岸の色
      都の花に嘯けば
      月こそかかれ吉田山
 (三高)

 岡先生は、この二つの詞に大きな差異を感じられ、ご自分の進路を決められた
わけですが、わたしも、この三高の寮歌は好きで、よく歌います。しかし、好みは
各自それぞれで、わたしは、旧制大阪高等学校の寮歌「逍遥」(作歌・作曲は
本位田重美氏、5文乙)が一番好きです。非常に叙情的な素晴らしい歌ですので、
ここにご紹介します。(わたしはレコード、テープも持っています。)

   (一) 薄紫に黄昏て       静寂深き手塚臺
       小さき星の二つ三つ   み空に瞬きそめてけり

   (二) 今宵寮より唯獨り     さすらひ出でし若き子の
       クローバ茂る丘にみる  遥か故郷の夢淡し

   (三) 嗚呼追憶の野よ丘よ   たかき希望を胸に秘め
       故郷さらばとたち出でし  辿るも遠き夢の跡

   (四) 生駒の山にしろがねの   月は折から登りそめ
       葉末に宿る白露も     若き涙に似たる哉

   (五) み空に月は冴えわたり  森影清き聖天や
       清き光を帆にうけて     小舟浮べるちぬの海

   (六)  見よ音もなく夜は更けて   こヽ住吉の大鳥居
        木陰に獨り佇める      若き遊子の愁かな

   (七) さはれ遊子よ故郷の    夢よりしばしさめはてヽ
       たゞ微笑みて友どちの   美き団欒に歸りなん

 いかがでしょう。さあ寮歌を歌ってみませんか。
 寮歌について、みなさんはどのようにお考えでしょうか。

次回も
時事エッセー
です。

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コメント

野宗邦臣様

初めまして。私も寮歌ファンの一人です。一番好きだとおっしゃっておられる「逍遙」は私も最も好きな作品です。特に四~六番にかけての詞がたまりません。大阪で暮らしたことのない私のような者にも、生駒の山、ちぬの海、住吉神社の情景が想像され、こんなに地方が格調高く美しく歌われたのは寮歌以外にあまり例がないのではないかと思われます。

私は大高85回記念祭のCDによる「うすむらさき幻想曲」で「逍遙」を愛聴しております。一番から七番までフルバージョンで歌われています。

大高寮歌では、ほかに「東北寮寮歌」「いちごにぞ」「広原に」などが好きですが、ほかにもたくさん素晴らしい寮歌があるのでしょうね。


投稿: 真珠の夢 | 2009年12月 5日 (土) 11時47分

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