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2007年8月10日 (金)

会社は誰のものか!

 76回目のブログです。

 参議院選挙が終わり、次への新しい展開へとすすんでいる今日此の頃ですが、
選挙をちょっと振り返ってみましょう。自民党惨敗、民主党大勝利の要因は、
①年金問題、②政治家の事務所費、③政治資金、④閣僚の失言、⑤候補者の
清新さ
のすべてに亘って、自民党側に弱点が露呈したということでしょう。
 はっきり言えば、圧倒的に「金(かね)の問題」につきるのではないでしょうか。

 現在のわが国において、とにかく、どぎつく言えば「金(かね)」、横文字で言えば
「マネー(Money)」を軽視すれば、たちまち一般国民から総スカンを食らうことが
証明されました。(現在の国民経済は、個人と国家財政、地方と都会、民と官、
各業種、各税など、それぞれが複雑に入り組んでおり、企業での「景気」、マクロで
いう「経済」全体の整合性は、別に問題としてあるわけですが…。)

 年金問題ではっきりしましたが、約束した金の恨みは怖いことを、議員センセイ
は身につまされたのではないでしょうか。(本来の国政選挙がこれで良いのかどう
かは全く別です。)

 さて、同じ金に関係することですが、7月19日、ニッポン放送株のインサイダー
取引事件で、証券取引法違反の罪に問われた村上ファンド元代表、村上世彰
被告の判決公判が東京地裁で開かれました。裁判長は、「動機には強い利欲性
が認められ、強い批難に値すると言わざるを得ない」として、村上被告に懲役2年、
罰金300万円、追徴金約11億4900万円の実刑を言い渡しました。追徴金は
インサイダー事件では過去最高額となりましたが、村上被告は即時控訴しました。

 わたしは、昨年5月末に、求められて、村上ファンドへの私見をインターネットで
公開しました。骨子は、村上氏はメディアを上手く活用したグリーンメーラー(脅迫
的高値買取強要)として唾棄すべき存在であり、近々取り調べを受けるであろうと
示唆しました。ズバリ、予想通り、1週間後の6月5日に逮捕に至りました。

 近年、会社は誰のものかという議論が沸騰しています。村上氏は、会社は株主
のものであり(株主所有論)、経営者は株主のためにあると主張、したがって、
経営者は時価総額向上のみを追求するものであり、また株主は何を追求、要求
しても良いという思想の持ち主です。この思想の最たるものが、「金もうけのどこが
悪いんですか!」という言葉に凝縮されています。

 一方、ステークホルダー論があります。ステークホルダーとは、ふつう利害関係者
と約されていますが、企業は公器であり、経営者は株主の利益ばかりでなく、他の
ステークホルダー(従業員・得意先・債権者・下請会社・地域社会など)の利害も
勘案して行動すべきであるという考えがステークホルダー論です。

 村上氏は、会社は株主のものでしかないという株主絶対論を唱え、グリーン
メーラーとして、法律の塀の上を片足で歩きましたが、わたし達は、どのように捉え
ればよいのでしょうか。この大きな二つの考え方は、おそらく、日本社会をどう見る
かによって異なる結論となるように思われます。

 今、わが国の企業は、その制度、考え方が大きく曲がり角に来ています。
大変革と言ってよいでしょう。代表訴訟、監査役、ストックオプション、ホールディン
グカンパニー、インサイダー取引、株式交換、労働者派遣法、会計制度、時価評価、
種類株、企業統治、自社株買、などなど極めて広範囲に亘って法律が改正され
ました。そのほとんどが、日本の制度をアメリカのそれに近づけようとするものです。

 この大変革が、どんな意味をもつのか、又、それはわが国にとって望ましいのか
どうかを真剣に考える必要があると思われます。わたし達は、会社、企業をどの
ように捉えればよいのでしょうか。この問題についての最適な本をご紹介します。
この本は、わたしの尊敬する知人である1部上場企業の建設会社A社長から紹介
されたものです。

     著  者  ロナルド・ドーア
     書  名  『誰のための会社にするか』
     出版社  岩波書店
     書  式  新書
     価  格  780円+税

 最近、わが国の諸制度をアメリカ流にしようとする滔々とした流れの中で、いろ
んな軋轢が生じており、これが真に日本人の資質、特性に合致したものかどうか
検討する必要があるのではないでしょうか。もちろん、非効率、理不尽な諸制度は
スピーディに変革して行かなければならないことは言うまでもありません。

 その意味で、この本は、一歩立ち止まって考えるのに適したものだと思います。
著者は英国生まれですが、流麗な日本語を駆使しており、わたし達一般日本人も
到底及ばない日本語の名手です。深い教養、高い見識、豊かな人間性を窺わせる、
素晴らしい人物であろうと思います。

 著者は、いわゆるステークホルダー論者ですが、日本社会の健全な前進のため
に、企業に対して、法制面も含めて、極めて傾聴すべき次のような提案を行って
います。

  ① 従業員の経営参加
  ② 企業議会の構想
  ③ 付加価値計算書(付加価値配分表)の作成

 現在、企業は決算書類として、P/L(損益計算書)、B/S(貸借対照表)を作成
していますが、著者は、これに加えて、V/A(付加価値計算書)も作成すべきで
あると次のように記しています。

 「ステークホルダー企業にふさわしい意識を経営者に植え付ける方法として提案
したい。有価証券報告書の内容として、いまのような、営業利益・経常利益を報告
させる、株主への還元中心の損益計算書、および配当、内部留保、役員賞与の
利益配分だけでなく、その他に、ステークホルダーのうち、少なくとも、株主、
従業員、債権者、および国家への還元を同時に比較できる、付加価値配分の
開示も義務付けることである。……

 付加価値総額とは、結局、会社が買い入れた原料、部品、エネルギー、コンサル
タント・サービスなどのコストを売上から差し引いた額である。言い換えれば、株主
や銀行から得た資本を使って、経営者・技術者・事務・生産に当たった労働者など
の知恵および肉体労働が総体に作った価値―原料などに「付加」した価値である。
付加価値配分表は、企業の内部の人々の報酬・給料・になった分、銀行への利子
になった分、国家・地方政府の税金になった分、および会社に残った分を示すもの
である。

 これらは、株主や銀行の資本と社員の労働の相乗効果を持っている性格を象徴
するような計算であり、企業が、役員、管理職、平社員といった人間の総体である
という意識を強める手段として、ステークホルダー企業として相応しい会計の出し
方である。」

 なかなか説得力のある、見事な提案ですね。企業経営者で、自社はステーク
ホルダー型を目指すというのであるならば、こういう簡単な提案を実行して欲しい
ものです。もしも、何にも対応しないというのであるならば、それは、自己保身の
ためのステークホルダー論だと言わねばなりますまい。

 わたしは、わが国の会社(企業)は、ベースに社会性(≒CSR・Corporate
Social Responsibility)という国民的良識を据え、その上に株主とそれ以外の
ステークホルダーを置く形が望ましいと考えています。(下図参照)      

                     『 会  社 』
        ―――――  ―――――          
      |   ス    |       |
      |   テ      |     株   |
           |   |   |       |
      |   ク    |       |
      |   ホ    |       |
      |   ル    |   主  |
      |   ダ    |       |
      |   |    |       |
       ―――――――――――
       |                 |
      |   社  会  性    |
      |                 | 
       ―――――――――――

 もう、グローバルスタンダード万歳(=アメリカン・スタンダード=アメリカ・オール
万歳)は多少控え、合うところを取り、合わないところは排除した方が良いでしょう。
(もっとも、アメリカとの安全保障の関係上、難しい要素もありますが)。
 また、わが国に横溢している中国への土下座姿勢は、それこそ、きっぱり止める
べきであり、それとともに南北朝鮮とは少々距離をおくべきでしょう。

 今は、もっとわたし達日本人の持ち味(特質)を、真剣に、じっくり見つめ直すこと
が肝要ではないでしょうか。

 『誰のための会社にするか』をお薦めします。岩波ですから、例によって、固い、
パリパリの観念的な本を予想しがちですが、そうでもありません。気楽に読めます。

 みなさんはどのようにお考えでしょうか。

次回も
時事エッセー
です。

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