「東京スカイツリー」…これは現代の匠だ!
283回目のブログです。
“ 山かげや 岩もる清水の 音さえて 夏のほかなる ひぐらしの声 ”
(慈円・鎌倉時代・天台座主)
この山かげにいると、岩から漏れてくる清水の音が冴えるように聞こえ、加えて夏とも思えぬ蜩(ひぐらし)の鳴き声までが聞こえてくる…。
慈円大僧正にならって、山間で清水の漏れる音や蜩の声を落ち着いて聞けるようになりたいものですが、ここはシャバ、ましてや汚辱にまみれた出鱈目な菅氏が居座っている政治空間に支配されているわたし達の日常世間は、ますます混迷と堕落への道を歩んでいると言ってもいいのではないでしょうか。
しかしながら、そんな軟弱、堕落、不誠実の世界ではなく、その逆の世界があるのも事実です。そのひとつが、強い自信にあふれ新しい創造の世界に挑戦していこうとする凛とした精神を持った現代の匠…ジャパンテクノロジー…の世界でもあります。
先日、7月24日の日曜日、テレビのNHKスペシャルで「東京スカイツリー」建設への挑戦に密着取材した映像を見ました。日頃NHKはほとんど見ないのですが、この番組は素晴らしく良質であり、ややもすれば萎えようとするわたし達に、深い感動と難問打開への勇気を与えてくれるものでした。
7月24日は地デジ(地上波デジタル)移行の日。7月23日は中国高速鉄道追突事故(原因究明なし、復旧優先38時間後運行、人命軽視、証拠破砕隠蔽)による中国の誇る新技術システムへの信頼感吹っ飛び。…それだけに、東京スカイツリー建築に関するTVドキュメントには興味津々。
東京スカイツリーは平成20年(2008)7月着工、高さ634m(むさし・武蔵の国に由来)、世界一の塔の高さを目指し、大地震や台風に見舞われる日本において、災害時でも安定して放送を継続し、被災者を支えるという使命を担ってのまことに厳しい技術に挑戦する建設事業でもあります。
設計はわが国で最高峰の日建設計、施工は著名な実績を誇る大林組。日本での今までの実績は東京タワーで333mですから、634mともなれば、高度な耐震性、耐風性が要求されます。それに対応すべく地下は50mもある特殊形の杭、地上は495mの塔体にわが国の伝統を組み込んだ新技術を展開しています。それは、伝統建築である「五重塔」をヒントにした『心柱(しんばしら)制振』だそうです。真ん中には直径8m、厚さ60cm、高さ375mの鉄筋コンクリートの円筒形をおき、外側のトラス構造の鉄骨部分と連結させたりオイルダンパーで接続したりして、地震エネルギーなどの吸収をはかっています。
先々月、日本最古の木造建築「法隆寺」の五重塔を拝観したばかりであり、わが国の歴史を支えた先人の叡知が、現代に新しい形で生かされていることに深い感銘を覚えます。
さて、テレビは、塔体495mから上の建設の難しさを軸に、技術者たち(設計者・施工者)はいかにそれを克服していったかを描いています。
500mより上での施工は、風速が4mをこえると溶接がむずかしいため、この難題を克服するために放送用アンテナを設置する構造物(これをゲイン塔という)を塔体の中から押し上げる工法を採用。
塔体とゲイン塔との隙間は数センチという狭さであり、塔体も太陽熱によりわずかに反り返るなかでの作業が続くも、昨年末、ゲイン塔が回り出すという不測の事態が生じたのです。
想定外のこととはいえ、解決しなければならず、何とかガイド鉄骨の設置でクリア。しかしながら、次に襲ったのが3月11日の「東日本大震災」。
作業途中で大地震に遭遇、それも運悪く、制御装置の付け替え作業中であり、3000トンのゲイン塔がユラリユラリ。作業員全員緊急避難、全員無事。しかし、ゲイン塔をそのままにしておけず「決死隊」を募り作業遂行。
緊迫感あふれる場面に思わず身を乗り出しそうになるとともに、その時のリアルな映像には目をみはらせられました。
あの大地震による塔の揺れ幅は4m~6mあったにもかかわらず異常はなく、塔の耐震性が確認されたと言えます。
3月18日、ついに634mに到達。3月19日最終調整。関係者3本締めでお祝い。技術者の明るい顔と顔。「苦悩期間があまりにもながく、実感がわかないなあ」「すごいね。地球は丸いんですね」などの声。
このテレビを見て、最も印象に残ったのは、現代の最先端をいく建築はものすごい精度を求めており、まるで精密機械をつくるのと大差ないことです。
・「光波測定器」では鉄骨の接続部の角度を小数点第2位までとしている。
・ゲイン塔の釣り上げワイヤーの操作時、傾斜を1/1000度まで調整。
・ゲイン塔の設計上の許容誤差は6cm。これは、2階建ての家屋に
あてはめれば、わずかに、0.3mmに相当する。(!)
日本の技術ここにあり、日本の匠(ジャパンテクノロジー)いまだ健在、でたらめな政治と苦難の大震災のなかで“真の勇気”を貰いました。崇高な使命を果たした技術者魂に敬意を払うとともに、ゼネコン大林組や日建設計など、建設に携わったすべての人たちに心からのエールを送ります。
わたし達が東京スカイツリーにのぼれるのは、平成24年(2012)5月22日からだそうですから、楽しみにしたいと思います。
ところで、再放送が次に予定されています。
7月30日(土)午前10:05~11:03
NHK総合(ただし、関東甲信越のみの放送)
8月6日(土) 午前1:15~2:13(5日深夜)
NHK総合(近畿ブロックはマルチ編成・サブチャネルで)
NHKの歴史、戦争、思想関係の番組は偏向が著しく問題が大有りですが、技術関係の番組はそれなりに良心的であり充実していると思います。
みなさんにもぜひお薦めします。特にビジネスマンは必見です。
次回は
時事エッセー
です
| 固定リンク
コメント
わが社はそのスカイツリーの
免震カバーを製作中です。過酷な精度と機能を要求されながら取り組んでいますが、面白いのは今から20年間で約20cm地盤沈下が起こることを想定して作ることです。
施工完了の姿は床が斜めになっていて、壁も天井もへんてこりんですが、我々関係者が死んだ後か認識能力が衰えたころ?実証されることになっています。目下特別の試験装置を作りながら徐々に沈ませるシミュレーションに励んでいます。
投稿: kamakura | 2011年7月29日 (金) 09時18分