「大学」・勝海舟に学ぶ!
293回目のブログです。
“いかなれば 同じ一つに 咲く花の 濃くも薄くも 色を分くらむ ”
良寛(江戸後期・僧侶・歌人)
どんなわけで、同じ一つの時期に咲く花が、濃い色や薄い色に分けられるのだろうか…。
良寛和尚の和歌を寓意的に捉えれば、これは人間にもあてはまり、持ち場や立場、あるいは得意か不得意により、いろんな花(成果・果実)を咲かせるものです。
それは、花が咲くだけでも良しとするか、立場が立場ならばそれに相応しい色を見せるべきと考えるか、人それぞれでしょうが、私は、立場にふさわしい花の色を求めたいと考えます。
去る9月13日、野田内閣総理大臣は所信表明を行い、その冒頭において、明治維新の折、幕府側の大政治家である勝海舟が語ったという「正心誠意」という言葉を引用しました。
わたしは、もちろんのこと浅学菲才(学問や知識が浅く才能がないこと)ではありますが、ここで「大学」に出てくる言葉とその趣旨を整理してみたいと思います。
■ 政治は正心誠意のみ
政治家の秘訣は、何もない。ただただ「正心誠意」の四字ばかりだ。この四字によりてやりさえすれば、たとえいかなる人民でも、これに心服しないものはないはずだ。また、たとえいかなる無法の国でも故なく乱暴するものはないはずだ。
ところで見なさい。今の政治家は、わずか四千万や、五千万たらずの人心を収攬することのできないのはもちろん、いつも列強のために、恥辱を受けて、独立国の体面をさえ全うすることができないとは、いかにもはがゆではないか。
つまり彼らは、この政治家の秘訣を知らないからだ。よし知っていても行わないのだから、やはり知らないのも同じことだ。何事でもすべて知行合一でなければいけないよ。
(勝海舟「氷川清話」明治30年頃談・角川文庫)
海舟が語った「正心誠意」という言葉は「大学」にあります。「大学」とは孔子が弟子の曽子に教えたことを曽子の弟子がまとめたものであり、論語・孟子・中庸と併せて四書と言われています。(ちなみに、五経とは易経・書経・詩経・礼記・春秋)
大学は慶応大学とか大阪大学とかの高等教育のことではなく「大(→天)を学ぶ」ということです。その天を学ぶためには「徳」を身につけることが必要であり、次の八条目を実践することが肝要と教えています。
■ 『大学』の八条目
「平天下」(天下を平らかにする・国家の繁栄平和)
↑
「治国」(国を治める)
↑
「斉家」(家をととのえる)
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「修身」(身を修める・自分の行動と心を修める)
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「正心」(心を正しくする・良心にとどまる)
↑
「誠意」(意を誠にする・自分の考えに嘘を吐かない)
↑
「致知」(知を致す・知を極める)
↑
「格物」(物にいたる・物の道理を感得する))
格物から致知、誠意、正心、修身、斉家、治国に至って平天下という流れになるわけですが、これは、儒学の古典として、平天下への道を索める国のリーダーたる政治家には必須の教養(知識と実践)だと言えるでしょう。
立命館大学の加地伸行教授は産経正論欄(9/30)で、正心誠意という言葉は、海舟はそれを引用したに過ぎず、古典である「大学」が出典元であり、野田首相は正しく使っておらず、首相及び秘書は基本的教養を学び直せ、と次のように厳しく指摘しています。
「国際社会(天下)に貢献しようと思えば日本国をきちんと治めよ(治国)。そのためには民主党内を秩序づけよ(斉家)。そのためには内閣に疑惑あるもの(例えば山岡賢次氏)を入れるな(修身)となって、そこから「正心誠意」が始まるのである。「正心誠意」だけを突出させても、それは『大学』の趣旨ではない」
今、あらためて勝海舟の本を読んでみると、明治維新には素晴らしい傑物が多く存在し、それも、幕臣、勤王の両陣営に亘っていたことに驚嘆させられます。特にその両巨頭、幕臣の勝海舟と勤王の西郷隆盛による、平和裡の国家体制変換、いわゆる江戸無血開城などは、世界史においても燦然と輝く日本の叡知だと言っても決して言い過ぎではありません。
江戸時代は、武士階級はいうに及ばず庶民の層においても教育が行き渡り、世界で最高の識字率であったと言われていますが、特に武士階級には高い教養とノブレスオブリージュがあったことは間違いなく、加えて、彼らには国家存亡という危機感の共有があったことを注視しなければなりません。
これは、幕府よりも国家が大事という、究極の「公の精神」がベースに存在していたということではないでしょうか。
翻って今、内外ともに国難に遭遇している現在の日本にどうして立派なリーダーが出てこないのか…その因は、「国家」を考えない、さらに言えば「国は悪い存在だ」、もっと言えば「日本国は悪逆・諸外国は平和愛好公正信義国家である」と大脳に刷り込んだ「戦後教育」の無残な成果によるものかもしれません。
それで良いわけではないのですが、わたし達は束になっても明治維新を成し遂げた人物の足元にも及びません。彼らはすべて“志操が極めて高い”からです。そうだとすれば、わたし達も志操を高く掲げていかねばなりません。
その意味で、勝海舟や福澤諭吉の自伝を読むことを薦めます。どちらも口述筆記ですから、当意即妙、軽妙洒脱、時代描写秀逸、自らの弱点までの吐露など、なかなか面白く且つ有益なところが多々あります。
勝海舟「氷川清話」講談社学術文庫 1050円
「氷川清話」角川ソフィア文庫 820円
福沢諭吉「福翁自伝」講談社学術文庫 1050円
「福翁自伝」角川ソフィア文庫 820円
これらを読んで、現在の政治、現在の日本人に思いを廻らすのも一考ではないでしょうか。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回は
時事エッセー
です
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コメント
加地先生、原典原理主義?。だれが、どういう文脈で引用するかによって、元の意味が生きもし、曲げられもする。
福沢と勝のいがみ合いも、なかなか・・・。
「行蔵ハ ワレニアリ」良いね。
子母沢寛の小説「勝海舟」新潮文庫全5巻もお勧め。
投稿: 被災者K | 2011年10月 7日 (金) 10時30分