「G・N・H」…ブータン王国の理想と現実!
301回目のブログです。
“朝まだき 嵐の山の 寒ければ 紅葉の錦 着ぬ人ぞなき”
藤原公任(拾遺和歌集・平安中期)
朝はまだ早く嵐山のあたりは寒いので、山から吹き降ろす風によって紅葉が散りかかり、錦の衣を着ない人はいないものだ…。
いよいよ晩秋から初冬へ、京都・嵐山の多彩で奥行きのある景観が目に浮かんできますが、商都・大阪では大阪市長、大阪府知事の選挙で劇的な結果が生じました。
新しく選ばれた橋下徹新市長・松井一郎新知事(大阪維新の会)の強力なタッグで、躍進する大阪、躍動感ある地方政治、世界に羽ばたく日本政治の起爆剤として大いに期待したいものです。(“体制維新の光は西から!”… 先々週のブログはピタリと当たっています)
さて、大阪市のあり方、大阪府のあり方、日本国のあり方を考えるにあたり、一つの参考になるのは、ブータン王国が目指す「G・N・H」です。
先日、ブータン国王・王妃が来日され、爽やかで柔和なお姿と堂々たる威厳により、わが国民にブータン旋風を巻き起こしました(わたしはすでに、平成20年1月4日の当ブログでブータン王国について記しています)。まず、ブータン王国を概観しましょう。
国名 ブータン王国(Kingdom of Bhutan)
面積 38,400平方km(ほぼ九州)
人口 70万人
首都 ティンプー
宗教 チベット系仏教(80%)、ヒンドゥー教(20%)
政体 立憲君主制
元首 ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王
GNI 14億ドル(国民総所得・旧GNP)
一人当たりGNI 1,920ドル
一人当たりの所得が、1,920ドル/年、日本円に換算すれば150,000円/年ですから極めて貧しい国ということになりますが、驚くなかれ、ブータンの尺度はわたし達大方の日本人の、金、金、金が全て、金がすべての基準だという考えではありません。
前ブータン国王は、1976年(昭和51年)非同盟諸国会議で、『Gross National Happiness is more important than Gross National Product』「国民総幸福度の方が国民総生産量よりは大事である」と述べました。GNPよりも「GNH(Gross National Happiness)」に目を向けようというのがブータン国王の趣旨ですが、基本的なコンセプトは次の通りです。
「持続可能かつ公正な社会経済学的発展」
「環境の保全」
「文化の保護と促進(再生)」
「良い統治」
なかなか素晴らしい哲学的な言葉だと感心しますが、1999年ブータン研究センターでは、幸福という概念を9つの要素に分けて数値化を研究しています。
① living standard(基本的な生活を大事にする→貧富差解消)
② cultural diversity(文化の多様性を認める→IT取組)
③ emotional well being(感情・感性の豊かさを大切にする)
④ health(健康に生活できる環境を守る→病院など)
⑤ education(教育環境を整える→学校無料化など)
⑥ time use(時間の使い方→効率的に働く)
⑦ eco-system(環境型の仕組みづくり)
⑧ community vitality(地域コミュニティに活力をもたらす)
⑨ good governance(良い統治)
素晴らしい幸福の要素ですが、ブータンの調査では「国民の97%が幸せである」と感じているそうですから、わたし達も見習うべきことも多々あるのではないかと思います。
ブータン王国は大の親日国家ですが、それは、ブータンの農業の発展に寄与した、海外技術協力事業団・農業専門家・植物博士の西岡京治氏(昭2~平4)に依るところが大きく、西岡氏はブータン国民から最大の敬意を払われています。
その意味では、これからのODAは単に「金」ではなく、相手国の持続的な発展に寄与する「人(日本人)」に限定し、その充実をはかるべきではないでしょうか。人と人、人のつながりこそが真の友好を醸し出すように思えてなりません。
ところで、幸せ度の高い、穏やかな性格のブータン王国に「魔の手」が着々と押し寄せているのをご存知でしょうか。わが国のマスコミではほとんど報道されていないのですが、ブータン王国の領土の「2割」が中国に浸食されてしまっていることを。
チベット動乱の1959年以降、ブータンは中国と接する北側国境線を封鎖してきましたが、近年、中国が最高級漢方薬・冬虫夏草を狙って、その宝庫であるブータン北部領土を着々と、徐々に徐々に越境、侵略してきているのです。危うしブータン!
チベットの次はブータン。穏やかな国家を「力」で侵略。武力的にはどう抗っても勝ち目はありませんが、ブータン王国の反撃と押し戻しに期待したいところです。その際、わが国は世界世論に積極的に働きかけ、ブータン王国を支援すべきだと考えます。ブータンを守れ!
これを見れば、尖閣諸島・沖縄もジワリ、ジワリと侵略されつつあるように思えてなりません。危うし日本!
ところがどうでしょう。あの東日本大震災の地にまで足を運ばれ、犠牲者となった方々に両手を合わせ、深い祈りを捧げられた、大の親日国家であるブータン王国の国王と王妃(国賓!)を迎えての「宮中晩餐会」に、あろうことか、とんでもない振舞いに及んだ大臣がいたとは。
一川防衛大臣(欠席・「他のパーティの方が大事と思った」!)
川端総務大臣(欠席)
細野原発担当大臣(欠席)
山岡国家公安委員長(欠席)
蓮舫行政刷新大臣(出席・携帯電話を堂々と使用!)
これらの方々は、いやしくも大臣ですが、国家意識、職務意識、誠実さを全く欠く、不実そのもの、大臣はおろか、国会議員の資格さえ有しないガサツかつ低レベルな人間ではないでしょうか。即時辞職を求めたいものです。
いやな有象無象が数多いるなかで、国王の国会議事堂での演説は、まことに心にしみる一服の清涼剤、感動しました。長文になりますが、ここに引用しますので、一度お読みください。
【「国民総幸福量」を重んじるブータン国王の国会演説】
(平成23年11月17日)
■「皆様は大災害に静かな威厳をもって対処された」
天皇皇后両陛下、日本国民と皆さまに深い敬意を表しますとともにこのたび日本国国会で演説する機会を賜りましたことを謹んでお受けします。
衆議院議長閣下、参議院議長閣下、内閣総理大臣閣下、国会議員の皆様、ご列席の皆様。世界史においてかくも傑出し、重要性を持つ機関である日本国国会のなかで、私は偉大なる叡智、経験および功績を持つ皆様の前に、ひとりの若者として立っております。皆様のお役に立てるようなことを私の口から多くを申しあげられるとは思いません。それどころか、この歴史的瞬間から多くを得ようとしているのは私のほうです。このことに対し、感謝いたします。
妻ヅェチェンと私は、結婚のわずか1ヶ月後に日本にお招きいただき、ご厚情を賜りましたことに心から感謝申しあげます。ありがとうございます。これは両国間の長年の友情を支える皆さまの、寛大な精神の表れであり、特別のおもてなしであると認識しております。
ご列席の皆様、演説を進める前に先代の国王ジグミ・シンゲ・ワンチュク陛下およびブータン政府およびブータン国民からの皆様への祈りと祝福の言葉をお伝えしなければなりません。ブータン国民は常に日本に強い愛着の心を持ち、何十年ものあいだ偉大な日本の成功を心情的に分かちあってまいりました。
3月の壊滅的な地震と津波のあと、ブータンの至るところで大勢のブータン人が寺院や僧院を訪れ、日本国民になぐさめと支えを与えようと、供養のための灯明を捧げつつ、ささやかながらも心のこもった勤めを行うのを目にし、私は深く心を動かされました。
私自身は押し寄せる津波のニュースをなすすべもなく見つめていたことをおぼえております。そのときからずっと、私は愛する人々を失くした家族の痛みと苦しみ、生活基盤を失った人々、人生が完全に変わってしまった若者たち、そして大災害から復興しなければならない日本国民に対する私の深い同情を、直接お伝えできる日を待ち望んでまいりました。
いかなる国の国民も決してこのような苦難を経験すべきではありません。しかし仮にこのような不幸からより強く、より大きく立ち上がれる国があるとすれば、それは日本と日本国民であります。私はそう確信しています。
皆様が生活を再建し復興に向け歩まれるなかで、我々ブータン人は皆様とともにあります。我々の物質的支援はつましいものですが、我々の友情、連帯、思いやりは心からの真実味のあるものです。
ご列席の皆様、我々ブータンに暮らす者は常に日本国民を親愛なる兄弟・姉妹であると考えてまいりました。両国民を結びつけるものは家族、誠実さ。そして名誉を守り個人の希望よりも地域社会や国家の望みを優先し、また自己よりも公益を高く位置づける強い気持ちなどであります。
2011年は両国の国交樹立25周年にあたる特別な年であります。しかしブータン国民は常に、公式な関係を超えた特別な愛着を日本に対し抱いてまいりました。私は若き父とその世代の者が何十年も前から、日本がアジアを近代化に導くのを誇らしく見ていたのを知っています。
すなわち日本は当時開発途上地域であったアジアに自信と進むべき道の自覚をもたらし、以降日本のあとについて世界経済の最先端に躍り出た数々の国々に希望を与えてきました。日本は過去にも、そして現代もリーダーであり続けます。
このグローバル化した世界において、日本は技術と確信の力、勤勉さと責任、強固な伝統的価値における模範であり、これまで以上にリーダーにふさわしいのです。
世界は常に日本のことを大変な名誉と誇り、そして規律を重んじる国民、歴史に裏打ちされた誇り高き伝統を持つ国民、不屈の精神、断固たる決意、そして秀でることへ願望を持って何事にも取り組む国民。知行合一、兄弟愛や友人との揺るぎない強さと気丈さを併せ持つ国民であると認識してまいりました。
これは神話ではなく現実であると謹んで申しあげたいと思います。それは近年の不幸な経済不況や、3月の自然災害への皆様の対応にも示されています。
皆様、日本および日本国民は素晴らしい資質を示されました。他の国であれば国家を打ち砕き、無秩序、大混乱、そして悲嘆をもたらしたであろう事態に、日本国民の皆様は最悪の状況下でさえ静かな尊厳、自信、規律、心の強さを持って対処されました。
文化、伝統および価値にしっかりと根付いたこのような卓越した資質の組み合わせは、我々の現代の世界で見出すことはほぼ不可能です。すべての国がそうありたいと切望しますが、これは日本人特有の特性であり、不可分の要素です。このような価値観や資質が、昨日生まれたものではなく、何世紀もの歴史から生まれてきたものなのです。それは数年数十年で失われることはありません。
そうした力を備えた日本には、非常に素晴らしい未来が待っていることでしょう。この力を通じて日本はあらゆる逆境から繰り返し立ち直り、世界で最も成功した国のひとつとして地位を築いてきました。さらに注目に値すべきは、日本がためらうことなく世界中の人々と自国の成功を常に分かち合ってきたということです。
■「ブータンは小さな国ではありますが強い国でもあります」
ご列席の皆様。私はすべてのブータン人に代わり、心からいまお話をしています。私は専門家でも学者でもなく日本に深い親愛の情を抱くごく普通の人間に過ぎません。その私が申しあげたいのは、世界は日本から大きな恩恵を受けるであろうということです。卓越性や技術革新がなんたるかを体現する日本。偉大な決断と業績を成し遂げつつも、静かな尊厳と謙虚さとを兼ね備えた日本国民。他の国々の模範となるこの国から、世界は大きな恩恵を受けるでしょう。
日本がアジアと世界を導き、また世界情勢における日本の存在が、日本国民の偉大な業績と歴史を反映するにつけ、ブータンは皆様を応援し支持してまいります。ブータンは国連安全保障理事会の議席拡大の必要性だけでなく、日本がそのなかで主導的な役割を果たさなければならないと確認しております。日本はブータンの全面的な約束と支持を得ております。
ご列席の皆様、ブータンは人口約70万人の小さなヒマラヤの国です。国の魅力的な外形的特徴と、豊かで人の心をとらえて離さない歴史が、ブータン人の人格や性質を形作っています。
ブータンは美しい国であり、面積が小さいながらも国土全体に拡がるさまざまな異なる地形に数々の寺院、僧院、城砦が点在し何世代ものブータン人の精神性を反映しています。手付かずの自然が残されており、我々の文化と伝統は今も強靭に活気を保っています。ブータン人は何世紀も続けてきたように人々のあいだに深い調和の精神を持ち、質素で謙虚な生活を続けています。
今日のめまぐるしく変化する世界において、国民が何よりも調和を重んじる社会、若者が優れた才能、勇気や品位を持ち先祖の価値観によって導かれる社会。そうした思いやりのある社会で生きている我々のあり方を、私は最も誇りに思います。我が国は有能な若きブータン人の手のなかに委ねられています。
我々は歴史ある価値観を持つ若々しい現代的な国民です。小さな美しい国ではありますが、強い国でもあります。それゆえブータンの成長と開発における日本の役割は大変特別なものです。我々が独自の願望を満たすべく努力するなかで、日本からは貴重な援助や支援だけでなく力強い励ましをいただいてきました。
ブータン国民の寛大さ、両国民のあいだを結ぶより次元の高い大きな自然の絆。言葉には言い表せない非常に深い精神的な絆によってブータンは常に日本の友人であり続けます。日本はかねてよりブータンの最も重大な開発パートナーのひとつです。
それゆえに日本政府、およびブータンで暮らし我々とともに働いてきてくれた日本人の方々の、ブータン国民へのゆるぎない支援と善意に対し、感謝の意を伝えることができて大変嬉しく思います。私はここに、両国民のあいだの絆をより強め深めるために不断の努力を行うことを誓います。
改めてここで、ブータン国民からの祈りと祝福をお伝えします。ご列席の皆様。簡単ではありますが、(英語ではなく)ゾンカ語、国の言葉でお話したいと思います。
「(ゾンカ語での祈りが捧げられる)」
ご列席の皆様。いま私は祈りを捧げました。小さな祈りですけれど、日本そして日本国民が常に平和と安定、調和を経験しそしてこれからも繁栄を享受されますようにという祈りです。ありがとうございました。 〆
素晴らしい演説に心がふるえました。お互いに、親ブータン、親日でありたいものです。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回は
時事エッセー
です
| 固定リンク
コメント