「官庁会計(公会計)」…これはわが国の弱点だ!
363回目のブログです。
“田子の浦ゆ うち出でて見れば真白にぞ 富士の高嶺に 雪は降りける”
山部赤人(やまべのあかひと・万葉集)
田子の浦を通り眺望のきく所へ出てみると、富士の高い峰に真っ白い雪が降り積もっていることよ…。
日本一と言われる富士山の美しさを、簡潔に、リズミカルに表現した山部赤人の万葉集を代表する格調高い名歌です。この和歌を口ずさむと、何となく心が雄大になり、日頃ちまちましたことばかりに目を向けがちな自分自身を反省し、背筋をピンとし、時には大きな立場でものごとを見ていこうという気持ちにもさせられます。
そういう大きな立場でものを見ようとすれば、わが国の弱点も良く見えてきます。たとえば…、昨年12月2日、山梨県の中央高速道路笹子トンネルで天井が崩落し、9名の犠牲者と長期間にわたる不通が生じ、大きな問題を投げかけたことは記憶に新しいところです。
このような過去の公共事業に基づく社会インフラが全国各所で賞味期限、正式には「耐用年数」を迎え、老朽化が否が応でも進んでおり、わたし達は「安全」ということに不安感を増幅させているのが事実です。
しかし、報道によれば、トンネルだけを取り上げても、全国のトンネルを調査、補強、スクラップ&ビルするには、気の遠くなるような、厖大な金額がかかると言われていますが、このお金、資金はどうするのでしょうか。
全国の高速道路は従来は道路公団のものでした。現在、保有は独立行政法人、管理運営は、東日本高速道路・中日本高速道路・西日本高速道路の3民間会社となっていますが、実態は官業です。なぜならばすべて100%国の出資だからです。したがって上記資金の対応ができていないのは間違いないと思います。
それは、国や地方自治体(官庁会計・公会計)と民間(企業会計・私会計)では、会計制度、会計方式が大きく異なっているからに他なりません。
公会計(官庁会計)の特徴は、①単式簿記、②現金主義、③単年度主義が原則、④外部監査がないことなどです。
民間会社での企業会計(私会計)は複式簿記であり、貸借対照表(B/S・Balance Sheet)や損益計算書(P/L・Profit and Loss Statement)が中心となります。官庁の単式簿記よりは遥かに進んでおり、官庁の会計が旧態依然のシステムであることに驚きを隠せません。なぜならば、国であれ、地方自治体であれ、あるいは他の公共団体であれ、単純な大福帳式単式簿記会計では組織の実態を明確に表すことが出来ないからです。実態を明確に表さなければ、適切な対処、政策を具体化することができません。
たとえば『減価償却』について考えてみましょう。企業ではある設備を導入した場合、それが15年の耐用年数であれば、毎年価値が下がっていくと考え、15年間にわたって減価償却として将来に備えることをします。
一方、官庁は将来にお金を備えるという発想はなく、耐用年数が来て使用不可となれば新設備を導入、その時全額を費用計上するのです。はたしてこれで実態を表すことが出来るのか大いに疑問があります。
したがって、今回のようなトンネル崩落事故に対する『手当』については、国サイドは全く資金を準備しておらず、それでも彼らはそのことに対して全く奇異にも、疑問にも感じていないのが実情でしょう。
実は、そのことが問題ではないでしょうか。長期にわたって物事を考え、政策を立案していこうとする姿勢があるならば、それを担保する妥当な会計方式でなければならないはずです。
今のままでは、35年から40年を越えようとする社会インフラの整備に莫大な予算を計上しなければならず、どうしようとするのでしょうか。
官庁の会計制度については、石原前都知事が口を酸っぱくするほど、その改革を国に進言していましたが、自民党をはじめとする政治家や官僚は全く耳を貸そうとしませんでした。誠に残念ながら、彼らは、口ではきれいなことを言いますが、心の底から、国の、日本国の将来には関心が薄いものと言わざるを得ません。
石原前都知事は東京都の会計システムを改定したという実績をもっているためでしょうか、日本維新の会は現行の公会計を改めることを掲げています。石原氏は、他の政治課題ではどうのこうのと言われますが、官庁会計システムの主張は全く正鵠を得ており、高い評価が与えられるのではないでしょうか。さすがに、石原氏、政策実行と政治的感性、将来を見据えることについては他の政治家とは大いに差があるように見受けられます。
財務官僚は、国が実態に即した複式簿記的な公会計に抜本的にあらためることは、わが国の実態が明白になり、裁量の範囲が削がれることを恐れているのでしょうが、わが国の危機的状況から判断すれば、もう待ったなしと言えるでしょう。
もちろんのこと、官庁会計を企業会計と全く同一にせよということではなく、国際会計基準などを参考にしながら、わが国に適した公会計システムを早急に構築していく必要があります。
官庁会計には4つの特徴があると述べましたが、それがそのまま欠陥でもあります。したがって、
・単式簿記をやめること
・現金主義をやめること
・単年度主義をやめること
・外部監査をおこなうこと
をドラスティックに進めることが大事だと思います。これによって官庁各部署は国のためになる、自治体のためになる政策を、長期的視野で真面目に追求するようになるのではないでしょうか。
何はともあれ「官」の世界においても、少なくとも、『減価償却』の考え方だけは持つようなシステムに変えなければなりません。そうすれば、必ず、将来構想、将来見通しをもった素晴らしい政策が続々うまれてくるように思うのですが…。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回も
時事エッセー
です
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コメント
私も100%同感です。民間会社で働いたことのある人間にとっては常識であることが、役人、政治家にとってはそうでないということが日本の現状の危機の原因であると思います。このことは以前から指摘されていますが、改善、進歩がないことが問題だと考えます。
投稿: 比賀江 克之 | 2013年2月 9日 (土) 00時01分
私は欧米訪問が多い生活を通じ長年この課題にも注目し、その都度の関係見識者に発信してきました。 最近は高橋洋一氏が連発する著作は全て購読してまいりました。
日本国統治問題の最も骨幹課題だと確信し、行動を継続する決意です。
投稿: 岡村昭 | 2013年2月 8日 (金) 14時47分
今回の貴コメントには全面的に賛成します。小生も従来から問題と感じていました。
日本がこれほどの借金国になったのも、公会計システムが大きく原因していると思います。
原子力発電のコスト計算も、最終原子炉を廃炉にするまでのコスト、発生する放射性廃棄物の最終処理コストまでを(予定計算であっても…)算定する必要があると考えます。
いわゆる「ライフサイクルコスト」の考え方の徹底が必要です。
投稿: 荒川 敬紀 | 2013年2月 8日 (金) 12時47分