原子力発電を考える…映画「パンドラの約束」を見て!
429回目のブログです。
“いつはりの なき世なりせば いかばかり 人の言の葉 うれしからまし”
(古今和歌集・詠み人知らず)
この世に嘘というものが無かったならば、人の言葉を疑うことなく耳にすることができて、どんなにか嬉しいでしょうに…。
古来から、世の中は偽りで覆い尽くされていたのかも知れませんが、わが国のリーダーにおいては、重大なことを決断する場合には、偽りや嘘のない清冽な心、凛とした精神で対処してほしいと願うものです。
わが国をとりまく重大なことと言えば、日本の安全保障、領土・領海、中国・朝鮮の強烈な反日政策、憲法改正、デフレ経済脱却、少子化、高齢化問題など数多くありますが、原子力発電(原発)をどうするかということも極めて大きなテーマであることは疑いもありません。
安倍政権は、先月「エネルギー基本計画」を閣議決定し、原発は「主要なベースロード電源」と位置づけましたが、反原発、非原発、卒原発、脱原発の政治運動は相変わらず根強いものがあります。ひとつふたつ見てみましょう。
●5月7日に、小泉純一郎、細川護熙両元首相らを発起人とする一般社団法人「自然エネルギー推進会議」が設立され、脱原発を目指し、原発再稼働・輸出に反対、再生可能エネルギーの普及活動を展開することになりました。
東京都知事選で脱原発を掲げて惨敗したお殿様・細川氏と相変わらずSingle Issue Politics(反戦・反税・郵政民営化・脱原発など一つの問題のみをめぐる政治運動)の政治家・小泉氏、その他に哲学者、精神科医タレント、音楽家、俳優、作家、文学者、音楽評論家などが発起人になっていますが、何かおかしい、引っかかるものを感じます。
そうなんです。このメンバーに、科学者(scientist)、技術者(engineer)がひとりもいないことに気づきました。原子力発電を論ずる場に科学者も技術者も存在しない「自然エネルギー推進会議」にどれほどの意味があるのでしょうか。
わが国は科学立国、技術立国です。エネルギー政策に科学と技術の観点からの判断を抜きにした政策は情緒や感情そのものであり、全く意味をなしません。“幽霊の正体見たり枯れ尾花”…つまるところ、この運動は、リベラル派(左翼/反日を含む)の政治活動とみなすべきではないでしょうか。
●小学館の週刊ビッグコミックスピリッツに掲載された漫画「美味しんぼ」が、福島の原発事故をめぐる描写で、放射線被爆と鼻血の因果関係を指摘したり、福島に住むべきではないと述べたり、大阪のガレキ災害廃棄物の焼却場近辺で鼻血・眼・喉・皮膚に不快な症状を訴えているひとが800人もいると記述したりし、大問題になっています。
これについて、福島県や大阪府/市は、事実無根として出版社・小学館に強く抗議しています。住民の不安を煽り、風評被害を生じさせる不用意なもので、漫画だからと言って許されるものではないと言う考えに基づいたものです。
周辺も、医者も全く事実に反することだと断言しているのですが、作者の雁屋哲氏は、名うての反日極左ですから、事実かどうかは大したことはないのでしょう。しかしながら、事実を押さえて発言してもらわないと、福島県民、大阪府/市民の不安感を増幅し、風評被害を蔓延することになります。わたしは大阪の近郊に住んでおり良く知っているのですが、大阪のガレキ焼却場の周辺には人は住んでいないのです。デタラメの事象で人心を惑わすことはまさしく犯罪というべきで、事実をイデオロギー抜きで曇りなく直視して漫画を描いて欲しいものです。
先日、小ブログ426回でご案内した原発ドキュメンタリー映画「パンドラの約束」を知人4人と観賞し、終わってからビールジョッキを軽く傾けながら原発についての忌憚のないディスカッションを行いました。
この映画の監督であるロバート・ストーンは、従来は、環境保護の立場から反原発の活動を展開し、反原子力映画「Radio BIKINI」(ラジオ・ビキニ)を制作したほどです。しかしながら、原子力発電について、事実に冷静に向き合い、客観的な視点でとらえた結果、それも環境保護の立場に立てばこそと、ある時から原子力発電支持に転換しました。
映画「パンドラの約束」は世界的な話題作であり、2013年1月全米最大級の映画の祭典・サンダンス映画祭で上映され「観客の75%が原子力反対者だったが、映画終了時には約8割が原子力支持に変った」と米紙が報じるなど反響を呼びました。(読売新聞より)
さて「パンドラの約束」の感想を述べたいと思います。
① こんなドキュメンタリー映画を観たことはありません。事実直視、現実重視、極めて妥当なアプローチ。原発反対者にも、原発賛成者にも、公平に発言させ、観客に考えさせる手法となっているのは、原発がテーマであれば、なるほどと納得できます。
② ロバート・ストーン監督の問題意識は次の通りです。
・いま、人類が抱える最大の脅威は地球温暖化
・再エネ推進の環境保護派は目的を見失っている
・優れた次世代原子力開発に目を向けよう
・日本の原発技術高度化への大きな期待
・正確な情報に基づいて、正しい判断を
③ アメリカの環境保護運動の巨頭スチュアート・ブランド、イギリスの作家・環境活動家マーク・ライナース、1990年代にアジア地区で森林保護運動を指導し、ブレイクスルー研究所を設立して、エネルギー・気候・安全保障などに関する研究を進めているマイケル・シェレンバーガー、雑誌「New Yorker」所属の時代から気候変動に興味を持ち、筋金入りの反原発派だったジャーナリスト/作家 グイネス・クレイヴンズ、ピューリッツァー賞ノンフィクション部門受賞作の『原子力爆弾の製造』の著者で、原発反対の立場から著作活動を続けていた作家リチャード・ローズ。
この5人の著名な活動家はかつて原発反対の活動を活発に行っていましたが、無責任なメディアの論調や感情的・情緒的な見方を排除した結果、原子力に対する偏見を是正し、原子力発電を推進すべきだとの考えに至ったことを真摯に率直にのべています。これはなかなか説得力があります。
かれらの言葉に耳を傾けますと、わが国の多くのマルキストがソ連の崩壊などで存在価値を失い、黙って隠密裏に環境派や平和派に衣替えした薄汚れた姿勢とは異なる「知的誠実さ」に感動さえ覚えます。
④ 原発の深刻な事故を経験した、スリーマイル島、チェルノブイリ、福島を訪れ、実際に放射能レベルを測定し、真実は恐れるに足らず、いたずらにメディアに惑わされてはならないと言います。
又、WHOの調査によれば、原発事故で亡くなった方は60人(すべてチェルノブイリ)ですが、化石燃料の大気汚染で亡くなっている人は300万人/年だそうです。
⑤ わたしは全く知らなかったのですが、アメリカでは1986年には固有安全性を持った原子炉・統合型高速炉(IFR)が開発されており、映画ではその過酷事故実験で全電源喪失状態を自動的にクリアする感動的なシーンを紹介しています。目を瞠る映像です。この開発がそのまま続けられればよかったのですが、時の米民主党政権が反原発主義により開発を中止しました。
今、世界では、上述の統合型高速炉(IFR)、小型モジュラー炉(SMR)、ナトリウム冷却高速炉(SFR)など、優れた安全性を備えた次世代原子炉の開発が着々と進められていること、そしてこれにわが国の技術者が参加していることをきちっと認識しておく必要があります。
原子力技術は基盤技術です。基盤技術は国民の貴重な財産であり、国家として、国民として、継承、発展させていかねばなりません。基盤技術は可能性を無限に秘めており、中止したり廃止すべきものではないのです。多くの企業人は経験的にそのことを知っています。
そのためにも、今、原子力に携わる学生や学者、研究者や技術者を離散させたり、未来の展望を無くさせてはなりません。また、彼らが不当な偏見や差別を受けるようにならないよう細心の配慮をすべきでしょう。特にマスコミにはそう願いたいもの。
マスメディアは原発を現代の悪魔のように言い募りますが、それは余りにも技術の歴史に無知すぎるように思えてなりません。原子力が悪魔というのであれば、ダイナマイトも石油もガスも、電車も自動車も、あるいは船も飛行機も悪魔です。これらは科学技術の成果であり、技術の進歩は、どのようなものであれ、一旦すすんだ位置よりも下がるものではなく、さらに上を目指すものだということを認識すべきではないでしょうか。
⑥ これも全く知らなかったのですが、原子力発電が核兵器の処理に貢献しているという事実です。アメリカは10年以上も前から、ロシアから旧ソ連時代の核弾頭を16000発以上も購入し、原発用燃料として再利用しているのです。これは原発が核兵器減少に役立っていることを示しています。
わたし達は、原子力発電について、情緒的、感情的、短絡的な判断をなすべきではなく、事実を直視し、エネルギー全体を見渡し、わが国の未来と技術立国日本を洞察するなかで、その方向性を決めるべきだと考えます。
ところが、現実は、科学者のいない脱原発会議、間違った医学情報を流布させるイデオロギストなどが数多く存在しており、残念なことに、このような知的不誠実の横行がわが国を弱体化させつつあると言えるのではないでしょうか。
原発ドキュメンタリー映画「パンドラの約束」を鑑賞することをお薦めします。
次回も
時事エッセー
です
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