寺子屋と私塾…江戸末期の識字率は世界一!
441回目のブログです。
“花見れば 咲かせた根元の 技を知れ天恵地恩 ゆめゆめ忘るな”
(作者不詳)
美しい花を見ると、わたしたちはその花の色や形や香りにうっとりしてしまうが、その美しい花は、根っ子の働きや丹精込め愛情込めて育てた人のお蔭であり、また、天の恵み、大地の恩によるものだということを決してわすれてはならない…。
自分自身は、すべてを一人でやってきたつもりでいるのだろうが、先祖、家族、地域、国の多くの人々の支えがあったことを忘れるべきではないのだ…。
最近のテレビや本は、わが国の長所、特徴、優れたもの…これが匠の手による製品であったり、美しい自然の風景、静謐な神社仏閣などの宗教空間、穏やかなマナーなどの心に属するものなど、ありとあらゆるものを取り上げて人気を呼んでいます。
この社会現象に対して、7月31日の東京新聞は“近ごろ日本を覆う「自画自賛」症候群は何の表れか?”と題した記事で、本屋で「日本人はこんなにすごい!」という本の平積みを見て、日本人から「奥ゆかしい」とか「謙虚」という美徳が消え去ってしまっていると嘆いています。
要するに、日本人の美点を強調することは止めろ、と言うのです。東京新聞は名うての反日サヨクですから、近隣諸国から、たとえ事実に基づかない侮日、反日の厳しい言動に対しても、自己主張をせず、平和的におとなしく従った方がいいのではないか、それが日本の美徳だという理屈なのです。
ここで指摘したいのは、東京新聞は事実・真実を明らかにしようとする姿勢を全く持っていないことです。事実を明らかにし、わが国の長所・短所、かの国の長所・短所を指摘し、課題解決への道を論じて何も悪い事はありません。
こんなことでは、東京新聞は、歴史を「ヒストリー」(history)として見るのではなく、朝鮮韓国と同じ「ファンタジー」(fantasy)か、中国と同じ「プロパガンダ」(propaganda)として見ていると勘ぐられても反論できないのではないでしょうか。
さて、先日「山田方谷(やまだほうこく)物語」(鎌倉国年著)を読みました。流麗な筆致で方谷の人物像が鮮やかに活写されており、あらためて方谷の偉大さに感銘しました。
江戸時代の藩の財政改革に辣腕を振るった人物として、江戸中期の上杉鷹山(うえすぎようざん・米沢藩)はよく知られていますが、幕末の山田方谷(備中松山藩)を忘れてはなりません。
山田方谷は陽明学の本質を極め、義と利の分別を明らかにし「民あっての国(松山藩)」をベースにした藩政改革を種々すすめました。たとえば、藩の困窮した財政については、実態を明らかにし、殖産興業による経済成長により立て直す方策を採り、目覚ましい成果を挙げ得たのです。
これは、現在のわが国にも大いに参考になる政策であり、明確な国家目標を掲げ、まず、偽りのない実態を明らかにし、国民のために、増税よりも成長政策を採るべきであることを示唆しています。
その意味で、山田方谷はもっともっと評価され、広く知られるべき偉大な人物であると言えるでしょう。
方谷は、晩年、江戸時代前期に岡山藩によって開かれた庶民のための学校である「閑谷学校」(しずたにがっこう)で陽明学を教えました。閑谷学校は、素晴らしい学舎(国宝)であり、ぜひ一度訪ねることを薦めたいと思います。
岡山県は教育県だとの印象を持っているのですが、その理由は、江戸時代の寺子屋と私塾が盛んであったことと関係がありそうだと上掲本が示唆していましたので、閑谷学校から資料を送っていただきました。
【全国の寺子屋と私塾】(幕末から明治維新にかけて)
寺子屋数 私塾数 合計
函館県 48 0 48
青森県 456 8 464
秋田県 249 66 315
山形県 63 6 69
宮城県 567 52 619
福島県 281 19 300
栃木県 86 19 105
群馬県 55 39 94
千葉県 107 53 160
東京府 488 123 611
神奈川県 507 11 518
山梨県 254 22 276
長野県 1,341 125 1,466
新潟県 63 27 90
富山県 17 4 21
石川県 191 22 213
福井県 31 23 54
静岡県 25 4 29
愛知県 977 43 1,020
岐阜県 754 28 782
三重県 115 4 119
滋賀県 450 8 458
京都府 566 34 600
大阪府 788 20 808
和歌山県 294 3 297
兵庫県 819 52 871
鳥取県 212 4 216
島根県 682 73 755
岡山県 1,031 144 1,175
広島県 257 65 322
山口県 1,307 106 1,413
徳島県 432 37 469
高知県 251 10 261
福岡県 150 50 200
佐賀県 27 7 34
大分県 482 91 573
熊本県 910 45 955
宮崎県 9 6 15
鹿児島県 19 1 20
(計) (15,361) (1,454) (16,815)
※沖縄県・長崎県・香川県・愛媛県・奈良県・茨城県・埼玉県
岩手県を欠く。「日本教育史資料」より作成。
なかなか興味深いデータです。これを見ると、岡山県の寺子屋と私塾の合計は、長野県、山口県に次ぐ数であり、さすがに岡山は教育に熱心だったことが窺われます。
一方、明治維新の推進役でもあった鹿児島が極めて少ないことに気づきますが、これはおそらく「郷中教育」と呼ばれる薩摩独特の教育システムが行き渡っていたからだと推測します。西郷隆盛、大久保利通、五代友厚、東郷平八郎、大山巌、松方正義、森有礼、寺島宗則、西郷従道、など明治維新を彩った偉大な人物が郷中教育によって綺羅星の如く排出しました。
西の「郷中」に対して、東には会津藩の「什」(じゅう)という
教育システムがあります。
【什の掟】
一、年長者の言ふことに背いてはなりませぬ
二、年長者には御辞儀をしなければなりませぬ
三、虚言を言ふ事はなりませぬ
四、卑怯な振舞をしてはなりませぬ
五、弱い者をいぢめてはなりませぬ
六、戸外で物を食べてはなりませぬ
七、戸外で婦人と言葉を交へてはなりませぬ
ならぬことはならぬものです
会津藩校「日新館」
背筋が真っ直ぐになる優れた教えであり、いじめ問題がはびこる今日、下手な言い訳に分かったような理解を示すのではなく「ならぬことはならぬものです」ときっぱりと教え諭す勇気を持ちたいものです。
ところで、江戸末期の識字率はどのくらいだったのでしょうか。調べてみますと、武家階級は100%、江戸府内では70~80%、農村部を除く江戸府内では90%であり、全国平均では、男子は40~51%、女子は15~21%であり、当時のわが国は世界一の識字率を誇っていたと言われています。驚くべき数字であり、寺子屋、私塾、および藩校の隆盛によるものと考えられています。
これは、誇りに思ってよいのではないでしょうか。東京新聞のように卑屈、自虐になる必要なんてさらさら無く、堂々と誇るべきものでしょう。そして、江戸時代でさえそうであったならば、今日ではさらに教育の充実に、なかんずく、その質の向上に力を入れるべきだと思います。
わたし達は、新聞やTVの安物のイデオロギーに毒されず、歴史の真実に学び、先人に感謝しつつ誇るべきものは大いに誇り、決して卑屈にならず、堂々と世界に伍していくことが肝要ではないでしょうか。
みなさんはどのようにお考えになりますか。
次回も
時事エッセー
です
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