“有給休暇消化の義務化”…日本人の休日を考える!
517回目のブログです。
“この秋は 雨か嵐か 知らねども 今日の勤めの 田草取るなり”
二宮尊徳(江戸後期の農政家・思想家)
この秋は大雨が降ったり嵐が来るかも知れないが、秋の豊作のために、今日の勤めである田の草取りをすることが大切だ…。
将来のことを思案すれば、安心の確信を持てればいいのですが、そうでない場合は不安一杯で押しつぶされそうになります。そんな時こそ、今日の仕事に、一歩一歩、真剣にぶつかっていくことの大切さを諭した歌です。
わが国は、戦後の高度成長からバブル崩壊、失われた20年という停滞期を経て、今、新たな経済復活への道を模索しているところです。その政策の中核をなすものは財政・金融ですが、人口、地方、中小企業、エネルギー、教育、年金福祉など多くの課題に対処しなければなりません。
このうち、忘れてはならないのが、いわゆる労働政策。企業をマネージメントするのは経営者であり、それを支えるのは従業員(労働者・勤労者/社員・パート・アルバイト)です。その従業員が仕事を健全に遂行し効率的な成果をあげるようサポートするのが基本的に望ましい労働政策です。
今、労働基準法等の一部改正案が国会審議されており、法律案要綱のポイントのひとつに、下記の“有給休暇消化の義務化”(平成28年4月実施予定)があります。
「使用者は、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、そのうちの5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする(以下略)」
ここで、わたし達日本人の休日について考えてみましょう。休日と言えば、もちろん例外は多々ありますが、一般的には、土曜日、日曜日、祝日、会社特定記念日、有給休暇日などです。
ところで、日本人は、自らを“働き過ぎだ”と思っているようですが、外国人から見れば、逆に“休みが多すぎる”と言われていることに留意しなければなりません。どちらが正しいのか、まずは具体的なデータから。
【日本の祝日】平成28年(2016) 国民の祝日
元日 1月
1日
成人の日 1月11日
建国記念の日 2月11日
春分の日 3月20日
昭和の日 4月29日
憲法記念日 5月 3日
みどりの日 5月 4日
こどもの日 5月 5日
海の日 7月18日
山の日 8月11日 (平成28年から)
敬老の日 9月19日
秋分の日 9月22日
体育の日 10月10日
文化の日 11月 3日
勤労感謝の日 11月23日
天皇誕生日 12月23日
(計) (16日)
日本の祝日は今年で年間16日。これは、フランスの11日、アメリカの10日、ドイツの9日、イギリスの8日と比べても多く、世界で2位のランクになるということも知っておかねばなりません。
そして、近年の傾向としては、祝日が本来の意義を失い「単なる休日」に堕しているように見受けられます。本来は、単なる休日でもなければ祝日でもなく『祝祭日』なのです。わが国は、情緒感覚の乏しい一部のリベラル派政治家や官僚に引きずられ、法律的には「祝日」としていますが、伝統的歴史感覚をもってすれば、諸外国と同じように「祝祭日」と文言を改正すべきではないでしょうか。
【有給休暇消化率】有給休暇国際比較調査2015 Expedia
付与日数 消化日数
消化率
ブラジル 30 30 100%
フランス 30 30 100%
スペイン 30 30 100%
オーストリア 25 25 100%
香港 15 15 100%
シンガポール 15 14 93%
イタリア 30 25 83%
メキシコ 15 12 80%
インド 20 15 75%
アメリカ 15 11 73%
日本 20 12 60%
韓国 15 6 40%
有給休暇の消化率だけ見れば、わが国は下位にランクされ、従業員が何か不当な扱いを受けているように見えますが、本当の休日は「祝祭日+有給消化数+その他休日」の合計で見なければ、判断を誤ります。
【(土日を除く)祝祭日と有給消化日数の合計】祝祭日2015 Voicepedia
祝祭日 有給消化日数 合計
フランス 9 30 39
スペイン 9 30 39
ブラジル 8 30 38
オーストリア 10 25 35
イタリア 7 25 32
日本 17 12 29
香港 13 15 28
シンガポール 11 14 25
アメリカ 10 11 21
インド 6 15 21
メキシコ 7 12 19
韓国 10 6 16
土日を除く祝祭日と有給消化数の合計から見れば、わが国もまずまずと言えます。さらに、わが国には、夏季休暇(orお盆休み)、年末年始の休暇、また会社によっては創立記念日(or創業記念日)などもあり、それらを少なく見て5日から10日として加えると日本の休暇日数は諸外国と比べても遜色はないと言わざるを得ません。
政府は有給休暇の取得率を平成32年(2020)までに70%に引き上げる方針ですが、各企業はそれぞれ異なったビジネス場面をもっており、それが法規制による義務化とされることには問題が大きすぎると思います。
日本経済もここまで来れば、企業業績の向上とビジネスの進展を睨みながら、経営陣と従業員あるいは組合との話し合いの場で何が最適かを探り、社員に裁量権を与えるような方法も取り入れていくことが必要になるのではないでしょうか。
全国一律、全業種一律、大中小企業一律の法規制が最適だとする観念(お上意識)が蔓延するなかで、何でも諸外国が先進だと思い込み、森を眺めず、林にも目を向けず、一本の木だけから、すなわちひとつのデータだけから重要な判断を下すのは、わが国ビジネスのダイナミズムを失わせることになる可能性が高いと考えます。
わが国は、経済成長以外に生きるすべはありません。その推進役がビジネスのダイナミズム。そのダイナミズムを育むには国家社会の公意識を目覚めさせる教育と日本人の感性を生かす適切な政策ではないかと思います。
有給休暇消化の義務化を前に、日本人の休日・祝日・祭日について、思うところを述べました。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回も
時事エッセー
です
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コメント
まったくその通りです。日本人から勤勉を取って何が残るのでしょう。勤勉は固有の文化です。
尊徳の歌の引用がいいですね。
またこのようなものを期待しています。
投稿: 鎌倉国年 | 2016年1月22日 (金) 09時29分
ご主張はもっともな正論と思います。
〇経緯としては かって時短について週休2日制・週40時間労働への論議が盛んに行われた際に労使が対立しました。労働側はもちろん時短+祝日維持、使用者側は(大企業は年間労働日数・時間数で対応の正論をとったものの)中小企業配慮から祝日を維持しつつ時短をMinimumに値切ろうとの姿勢をとりました。結局祝日は維持されるままに現在まできてしまったわけです。その裏には企業規模を問わず従業員には「祝日は既得権、年休はいざという時の欠勤のためのモノ」との強い意識がありました。
〇経済的合理性の観点から 外国旅行やキャリア開発(大学・院等での学習、資格取得等)、老親介護・育児のために年間にまとまった休暇をとる傾向が増えてきたことやメンタルヘルス、家族維持の観点から、また夏休み・冬休み・連休にピークとなるレクリエーション等社会サービス等の需要をならすためにも、祝日に頼らず連続休暇をとれるようにしておく必要が強くなってきています。
〇生産性向上と制度の改善が必要 現実には祝日出勤したり、年休をとれない従業員も多いのはご承知のとおりです。 現在の労働法制度を変えて最低限の年間休日数をある程度の強制力をもって付与する必要があります。その上で祝日の削減などを考えてゆくべきでしょう。もちろん併せて一人あたりの労働生産性の低さから「無駄な長時間労働」が横行している現実も変えていくべきでしょう。■
投稿: 元労働省役人より | 2016年1月22日 (金) 09時04分
毎回、示唆に富む情報をありがとうございます。休日(休暇)に対する自己認識が変わりました。これからも「自分では気が付かない盲点」を外す記事を楽しみにしております。
投稿: 野中志郎 | 2016年1月22日 (金) 08時14分
毎回、示唆に富む情報をありがとうございます。休日(休暇)に対する自己認識が変わりました。これからも「自分では気が付かない盲点」を外す記事を楽しみにしております。
投稿: 野中志郎 | 2016年1月22日 (金) 08時13分