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2016年2月19日 (金)

中国「世界覇権100年戦略」の戦慄すべき野望!

 521回目のブログです。

 

    “みんな知ってるように 油断は人間の大敵だ”
 
          (シェイクスピア「マクベス」)

 

And you all know, security Is mortals' chiefest enemy.”明治の文豪・坪内逍遥はsecurity「油断」と翻訳していますが、他には「自信過剰」や「安心」とする訳もあるようです。

 

 人間も、企業も、国家も、順調に行っている時は、ついついそれが常態であり、いつまでも平和と繁栄が続くのではないかと思ってしまい勝ちです。しかし、ここで、油断、自信過剰、安心に浸ってしまうと、シェイクスピアが喝破しているように、それは人間の大敵、一瞬の隙をみせることとなり、暗転への道を転んでいくことになるのかも知れません。

 

 今、世界は、安全保障(中東・ロシア・中国・朝鮮など)や経済(中国・欧州・中東など)問題で、極めて厳しい大変動の坩堝の中に落ち込んでいるように見えますが、何はともあれ、わが国のリーダーには一瞬の油断もせず、国の安全確保と経済のダイナミズムに注力してほしいと思います。

 

 わたしたち素人目には世界の情勢については、本当のところはよくわかりません。しかし、何か流れが変わってきている…これまでの世界に君臨してきたアメリカが、本質のところで変調をきたしているのではないかとの疑念を持つようになってきました。

 

 そんな時、そこにズバリ焦点をあてた本が翻訳出版されました。まさに吃驚仰天。ここにはアメリカが深く静かに中華人民共和国に浸食されている実態がアメリカ中枢の人物から赤裸々に語られているのです。

 

  書 名 『China 2049』
 
        秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」
  原著名 (The Hundred-Year Marathon : China's Secret Strategy
     
  to Replace America As the Global Superpower)
  著 者 マイケル・ピルズベリー
  訳 者 野中香方子
 
  出版社 日経BP社
  価 格 2000円+税
  書 式 単行本

 

 以下、読後の感想を記します。

 

 この本は、アメリカにおける中国の軍事戦略研究の第一人者であり、パンダハガー(中国の外交工作の手中にはまっている親中派)のひとりだった著者が、自らが中国に取り込まれていたことへの悔恨と深い反省のもとに、中国の世界覇権を目指す長期戦略に大いなる警鐘を鳴らす注目の著作です。

 

 この本に接した動機は、中西輝政・京大名誉教授が講演で強く推薦しておられたからです。翻訳も素晴らしく流暢で、世界のリーダーであるアメリカが中国の永年にわたる老獪な駆け引きに完膚なきまでにやられてしまっている実態が赤裸々に書かれており、まるで、高級な推理小説さながら、戦慄が背筋を走り、身体が氷のように冷たくなっていくのを覚えるほどです。

 

 「中国を研究するアメリカ人の多くは、中国を西洋帝国主義の気の毒な犠牲者と見なしがちだ。コロンビア大学政治学の指導教官らは“君たちの世代は何らかの贖罪をすべきだ”と示唆。このような中国を助けたいという願望と、善意に満ちた犠牲者という中国のイメージを盲信する傾向が、アメリカの対中政策の軸となり…」(まるでわが日本とそっくり)

 

 ところが、中国は、中国共産党革命から100周年にあたる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取し、世界の盟主として君臨することを目指す戦略を取っているのです。

 

  表では、思慮深く温和な哲学者「孔子」を使い、儒の理想とする国家社会の建設を目指すことを強調。裏では「孫子」(兵法・策略)を尊び、勝利すること、打ち負かすことこそが最高の規範として、軍事力の持続的かつ急速な拡大、積極的かつ違法な諜報活動、硬軟あわせた外交のもと、権謀術数に全力を挙げているのが中国の実態であることが詳細に語られています。

 

 アメリカは、そんなこととは露知らず、中華人民共和国(=中国共産党・独裁・共産主義)に対して、今日まで、極めて暖かい支援を施してきたことに驚きを隠せません。

 

  ニクソン・フォード・カーター・レーガン・父ブッシュ・クリントン・子ブッシュ・オバマまで8人の大統領がいますが、その間の米国から中国への経済的・軍事的・外交的支援は目をみはります。

 

  「レーガン政権のときなどは、武器システムをはじめ、遺伝子工学・知能ロボット工学・人工知能・自動化・バイオテクノロジー・レーザー・スーパーコンピューター・宇宙工学・有人宇宙飛行の8つの国立研究センターの設立を財政と教育の両面で支援した」とのこと。

 

  これを見ると、今の中国を育てたのはアメリカであることは明白であり、なぜ中国に対してはとてつもなく甘い対応を取ったのか、まったく信じられません。

 

 それは、アメリカが、中国はいづれアメリカ的な価値観を持った民主主義国家になるとの『幻想』を抱いた、いや『抱かされてしまった』ことによるもの。その間違った前提(=幻想)は次のとおり。
①つながりを持てば、完全な協力がもたらせる
②中国は民主化への道を歩んでいる
③はかない花、中国
④中国はアメリカのようになることを望み、その道を歩んでいる
⑤中国のタカ派は弱い

 

 2049年の中国の世界秩序はどうなるのでしょうか。反客為主(はんかくいしゅ・反って客が主になる)となり、中国の単極世界になる可能性が強く、その時の「危機」が描かれています。
①中国の価値観がアメリカの価値観にとって代わる
 
 
(自由より秩序、民主主義・人権よりエリート支配)
②中国はインターネット上の反対意見を「和諧」(検閲)する
③中国は民主化に反対しつづける
④中国はアメリカの敵と同盟を結ぶ
⑤中国はエアポカリプス
(大気汚染による世界終末)を輸出する
⑥中国の成長戦略は深刻な水の汚染と枯渇を引き起こす
⑦がん村
⑧欺く者が勝つー中国はナショナル・チャンピオンを野放しにする
 
 
(知的財産の窃盗・国有企業保護・投資制限)
⑨中国は国連と世界貿易機関をいっそう弱体化させる
⑩中国は営利目的で兵器を量産する

 

 読めば読むほど、愕然、茫然、戦慄が走ります。米国の対中政策に深く関わってきた著者マイケル・ピルズベリー博士だからこそ書ける内容でしょう。永年にわたって中国に騙され続けてきたことを、今、告白することは大変な勇気を必要としたのではないでしょうか。

 

 しかし、著者は、アメリカ政府を、アメリカ社会を、今だったらまだ正すことが出来るのではないかと祈るような気持ちで、アメリカ国民に強い警鐘を鳴らしたものと思います。

 

 思えば、鄧小平が使った言葉に『韜光養晦』(とうこうようかい・野心を隠し力を蓄えること)があります。100年マラソン、中国は永年にわたり野心を隠し、爪も隠し、ひそかに力を蓄え、時期を待っていたのですが、いよいよ本心を露わにしてきたのではないでしょうか。

 

 中国は、わが国に対しても執拗に仕掛けてきています。政・産・学・官・報でもかなりの人が靡いているのではないでしょうか。幅広い諜報工作員を配置し、三戦(世論戦・心理戦・法律戦)、歴史戦、外交戦を不断に仕掛けていることに留意が必要でしょう。

 

 たとえば、ピルズベリー博士は「孔子学院」のことを取り上げています。世界ですでに350の大学で設置され、米国では、スタンフォード・コロンビア・ペンシルヴァニアなどの超有力大学も含まれています。学院には中国から膨大な資金がもたらされますが、教授人事は中国の思いのまま、また、天安門事件やダライ・ラマなどの中国のタブーに触れることはできません。すなわち、中国の思想統制のもとに在ることを意味するとともに、諜報・工作活動の拠点でもあります。こんなわけで、カナダやアメリカでは、学問の自由を確保するために「孔子学院」を閉鎖する大学も出てくるようになっています。

 

 わが国でも、16の大学(立命館・早稲田など)に孔子学院が設置されています。これが諜報・工作活動の拠点でないことを祈りたいものですが、拠点でなければ中国が資金を投下するはずもないことは自明の理。このように、わが国も着々と浸食されつつあるということを深刻に認識しなければなりません。

 

 中国が100年マラソンに勝利したらどんな社会になるのでしょうか。その姿を、ピルズベリー博士は上に記したように10ヶ条あげていますが、現在の中国の延長線上にある姿を想像すればもっと分かりやすいと思います。

 

①事実、真実を報道する記者は拘留投獄、②宗教関係者は弾圧投獄、③TV・インターネット・新聞などのメディアは検閲拘留、④チベット人、ウイグル人のような異民族・少数民族は弾圧虐殺、⑤強烈な環境破壊による健康被害、⑥中国共産党幹部の常態化した汚職、⑦異常な格差社会。

 

 こんな社会はご免蒙りたいもの。そのためには、シェイクスピアの言葉にあるように「油断は人間の大敵」を肝に銘じ、悪逆非道な国や人から、自らを守り抜くことが肝要だと信じます。

 

 『China 2049』(秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」)を、強く、強く、推薦します。こんなに読みやすく、面白く、為になり、考えさせられ、行動にまで誘う書物はありません。

 

 みなさんはどのようにお考えでしょうか。

 

次回も
時事エッセー
です

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コメント

海外の人物の近刊には絶えず注目して購入している積りでしたが、ご紹介書はまだ知りませんでした。こ紹介に感謝します。岡村昭

投稿: 岡村昭 | 2016年2月19日 (金) 08時59分

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