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2016年4月22日 (金)

“文化創造力”…和製漢語から考える!

 530回目のブログです。

 

“雪をつみ 螢あつめし 窓のまへに おもひぞいづる いにしへの人”
 
                 徳川光圀
(第2代水戸藩藩主)

 

 その昔「晋」の孫庚(そんこう)は貧しさのため油を買えず、冬の夜は窓に雪を積んで読書、勉学に励んだ。また車胤(しゃいん)も油を買うことが出来ず、夏の夜は螢を集めてその光で本を読み勉学に勤しんだ。そうした古人の向学の志はまことにゆかしきものだと、窓の前で静かに思いだすことだ…。

 

 苦学して学問を修めた成果を「蛍雪の功」と言いますが、これは晋の時代、車胤が夏には蛍の明かりで、孫庚が冬には雪の明かりで書物を読んだという故事から来たものです。

 

 いにしえ人の学問への情熱が故事となって今日まで伝わっていることに光圀公ではなくても胸を打つものがあります。

 

  (閑話休題:「ほたる」は、正漢字では「螢、当用漢字・常用漢字では「蛍」と書きますが、夏の風物詩である幻想的なホタルの明かりのイメージからすると正漢字である「螢」の方がピッタリと来るような気がします。光を放つ虫 ⇒ 螢。何が何でも略せば良いというものではないと思います…)

 

 文明とか文化といえば、歴史学者ハンチントンは、世界には大きく分けて八つの文明が存在すると言います。 

 西欧キリスト教文明
 
 ロシア正教文明
 
 イスラム文明
 
 ヒンドゥー文明
 
 中華文明
 
 日本文明
 
 ラテンアメリカ文明
 
 (アフリカ文明)

 

 これらの各文明とも、長い歴史の中で燦然たる光彩を放ってきたことは間違いありませんが、それは常ならず、隆盛の時もあれば衰退の時もあったと言わなければなりません。

 

 わが国は文明という観点から見れば独自の光彩を放ってきていますが、すべてが全て、孤立したなかで内熟したものではなく、他の文明の影響は少なからずあったのではないでしょうか。それは、中華文明(支那文明)を中心として、ヒンドゥー・イスラム・西欧文明であったと思います。

 

 一般に、文明の中心として宗教的感性があげられますが、言語(言葉・文字)もそれなりに重要な要素ではないかと考えられます。わたし達が現在使っている文字は、漢字・ひらがな・カタカナを主としていますが、大昔は漢字のみであったものを独自の工夫とセンスと知恵を駆使しひらがなやカタカナを創造しました。そして、それらをミックスし、漢字かな交じり文として現在に至っているものであり、素晴らしき文明の発展として誇りに思えます。

 

 わが国の文字の中心にあったのが漢字であり、中華文明から伝播してきたものだと思いますが、それはずっといにしえのことでした。そう考えれば、不思議なことに、近年、明治以来、中華文明の輸入がほとんど皆無であるとともに、逆に、日本文明が中国(支那文明)に輸出されている実態に気づかされます。

 

 わが国では、明治のはじめ、cultureを文化、civilizationを文明と訳しましたが、Culture 「文化」と訳したのは坪内逍遥であり、Civilization 「文明」と訳したのは福沢諭吉でした。

 

 明治維新の立役者は「日本国」の独立と近代化への進展のために苦心惨憺、血の滲むような努力を重ねてきました。世界の先進文明であった西欧キリスト教文明に、追いつけ追い越せ、そのための先端の近代的概念用語を「漢字」を使うことによって新たに作り出す、まさに文化の創造、文明の創造に果敢に挑戦したひとりが、大阪の適塾で緒方洪庵から学問を学び、慶応義塾を創設した「福沢諭吉」です。

 

 わが国では、近代概念用語が急速に普及し近代化に大いに役立ちましたが、漢字の家元でもあった中国では、自ら用語を創造することができず、日本の用語を輸入しました。中国で使われている『人民』『共和国』『憲法』『民主主義』『人権』などは福沢諭吉などの日本の明治の先達が漢字を使用して創りだした“概念用語”を輸入して使っているのです。

 

 道理で、『民主主義』や『人権』が中国に定着しないひとつの理由として、それが輸入用語だからとも言えそうです。そう考えれば、中国が民主主義を理解する社会になるにはまだまだ膨大な時間を必要とするのではないでしょうか。

 

 それにしても、中国は何千年という輝かしき漢字の歴史を有しているにもかかわらず、近代的概念用語を生み出す力がなく、何と日本から輸入せざるをえなかったのですから、近代における文明度の衰退ぶりは目をふさぐほどと言えるでしょう。

 

 ここで、中国が日本から輸入した【和製漢語】の一部を見てみます。

 

日本式漢字語(日本在来のもので中国では使われていなかった漢字)
場所 武士道 道具 服従 保険 表現 解決 経験 権威 希望 記録 交通 距離 目標 認可 作物 作戦 節約 支配 宗教 想像 手続 特別 要素 覚書 貸方 借方 高利貸 茶道 読物 …

 

近代に改造された漢字語(古代の漢語を意味にあわせて改造した漢字)
文学(←論語) 文化 文明(←易経) 物理(←晋書) 演説 学士 芸術(←後漢書) 議決(←漢書) 博士 保険(←隋書) 封建 法律(←管子) 保障 表象 意味 自由住所 会計(←孟子) 階級 改造 革命(←易経) 環境 計画 経理(←史記) 経済 権利 機械(←荘子) 規則 講義 交際 交渉 教育(←孟子) 教授 共和 労働(←白居易) 政治 社会 進歩 信用 思想(←曹植) 自然 主席 運動 予算 …

 

欧米の言語を意訳した漢字語(漢字の組み合わせによる意訳)
弁証法 美学 美術 微積分 物質 治外法権 抽象 代数 断行 伝票 電報 電車 独裁 独占 液体 不動産 概念 議会 軍国主義 博覧会 判決 批評 法学 法医学 放射線 放送 方程式 医学 人格 情報 科学 化学 観念 刑法 警察 経済学 帰納 共産主義 民主 無機 歴史 列車 論理学 領土 領海 領空 算術 左翼 生物学 政府 政党 社会学 新聞 消防 消毒 主義 主権 出版 総理 数学 体育 鉄道 哲学 特許 右翼 唯物史観 有価証券 財団 材料 財政 …

 

 中国が日本から輸入した和製漢語は3000語弱と言われますが、上のような用語がなければ、現代中国社会において論理的に会話したり、明確な文章を書いたりすることは極めてむずかしいのではないでしょうか。

 

 中国でのある調査によれば、基本語のうち、出現頻度の多い言葉の31.8%が日本語由来の漢字語だそうですから、上の①②③を見ればなるほどと納得できます。

 

 それにしても、わたし達が一般に使う言葉がこれほど多く中国に文化輸出されていたとは知りませんでした。明治以来、中華文明からの恩恵はまったくなく、逆に、良い意味で、日本が中華文明へ影響を与えてきたことをあらためて認識した次第です。

 

 それを思えば、先達の文化・文明に対する素晴らしき営為と明治の偉大なる時代精神に深い感懐を覚えざるを得ません。

 

 わが国は現在、中国からは歴史認識や領土問題でプロパガンダを仕掛けられ、内には「親中」「媚中」「屈中」「隷中」の政治家・メディア・文化人が蟠踞(ばんきょ・根を張っていること)するといういびつな状態にありますが、中国の和製漢語の輸入を例とする明治以来の日中文化関係を見れば、ペコペコ卑下する必要はないのではないでしょうか。

 

 もう、わたし達は薄汚いサヨクイデオロギーの自虐史観から脱却し、自信を持って世界に貢献する道を進んでいくべく、蛍雪の学びをしっかりと深めたいものです。

 

 みなさんはどのようにお考えでしょうか。

 

次回も
時事エッセー
です

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