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2016年5月13日 (金)

ドイツ信奉論への疑問!

 533回目のブログです。

 

  “ 樫の木の 花にかまはぬ 姿かな ”
 
          芭蕉
(江戸前期・俳聖・『野ざらし紀行』)

 

 春の百花が華やかに咲き誇っているが、そのなかであたりかまわず高く黒々と聳え立つ樫の木は、堂々としており、まことに風情に富んでいることよ…。

 

 梅から桜、そして躑躅(つつじ)や皐月(さつき)、その他もろもろの花々が咲き誇ってくる季節ですが、そのなかで、悠々と生きていくことは素晴らしいこと言わねばなりません。

 

 わたし達も、樫の木のような生き方をしたいものですが、どうしても世の風潮に流され、事実や真実を知らぬまま、勝手な憶測や思い込みでものごとの判断をしがちです。

 

 近年、ドイツがユダヤ人虐殺をナチス・ヒットラーの問題として反省の意を示し、原子力発電については脱原発を明確にしたことで、わが国の大半のメディア、知識人が「ドイツを見習え」と合唱につぐ合唱。特に原発ゼロ政策には崇め奉るほどになっていることを知らねばなりません。

 

 ところが、昨年、ドイツの問題点を厳しく指摘する本が2冊出版され大変な注目を集めています。

 

  書 名 「ドイツ帝国」が世界を破滅させる ―日本人への警告―
  著 者 エマニュエル・トッド
  出版社 文藝春秋
  書 式 文春新書(800円+税)

 

  書 名 ドイツリスク ―「夢見る政治」が引き起こす混乱―
  著 者 三好範英
  出版社 光文社
  書 式 光文社新書(840円+税)

 

 エマニュエル・トッドはフランスの歴史人口学者・家族人類学者であり「ソ連崩壊」「米国発の金融危機」「アラブの春」を次々に“予言”したことでも有名。

 

 三好範英氏は読売新聞編集委員。バンコク・プノンペン特派員、ベルリンは特派員として3度、10年にわたる。ドイツ知悉のジャーナリストとして著名。

 

 上記2冊を読み、ドイツについての感想を述べたいと思います。

 

 昨秋のフォルクスワーゲン(VW)社の排ガス偽装問題が米国で発覚し、世界を驚かせました。まさか、あのドイツが、あの超巨大企業が、堂々と不正行為を政府がらみで行っていたとは何とも理解に苦しみました。

 

  考えてみれば、わたし達日本人はドイツに対してある種の憧を抱いているように思えます。それは、素晴らしく英明な大日本帝国憲法(明治憲法)がドイツを参考にして制定されたことに起因するとともに、職人的な気質、学問・文化の隆盛などに敬意を表しているからではないでしょうか。

 

  しかし、わが国はドイツから歴史上3度煮え湯を飲まされたことを忘れてはなりません。第1が明治28(1895)三国干渉(ドイツ・フランス・ロシアが日清講和条約による遼東半島の租借権を日本に放棄させたこと)。第2が昭和12(1937)第2次上海事変(上海の日本租界にドイツ軍が指揮した30万人の蒋介石軍が襲ったこと)。第3が昭和11(1936)ソ連に対抗すべく日独防共協定を締結したにもかかわらず、3年後に、ドイツは独ソ不可侵条約を結んでソ連と手を結んだことです。(加瀬英明氏のコラムより)

 

 朝日新聞などは過去ナチス・ドイツを絶賛しドイツ崇拝熱を煽りましたが、それがいまだに続いているのかも知れません。なぜなら、環境や電力エネルギー問題などではドイツを見習えと強く主張していますから。(参考までに、VW生みの親であるポルシェ博士はヒトラーの盟友)

 

 エマニュエル・トッド博士は「ドイツ帝国」の勢力図を次のように
示しています。

 

  ①ドイツ
 
  ②ドイツ圏(オランダ・ベルギー・ルクセンブルグ・チェコスロバキア
 
          ・オーストリア・スイス・スロベニア・クロアチア)
  ③自主的隷属(フランス
)
  ④ロシア嫌いの衛星国(スウェーデン・エストニア・ラトビア

 
                    ・リトアニア・ポーランド)
  ⑤事実上の被支配(フィンランド・デンマーク・ポルトガル・スペイン

 
     ・アイルランド・イタリア・ルーマニア・ブルガリア・ギリシャ)
  ⑥併合途上(ウクライナ・モルドバ・グルジア・セルビア・アルバニア

 
             ・ボスニアヘルチェゴビナ・モンテネグロ)
  ⑦離脱途上(イギリス・ハンガリー
)
  ⑧無法地帯(コソボ)

 

  ヨーロッパのほとんどが包含されるとは! もしもこれが真実に近いとすれば驚くべきことであり、経済的支配を中核として政治的な観点からもドイツが歩もうとしている道は、まさに『中欧帝国』と呼ぶべきものに他なりません。

 

 三好範英氏は、電力問題について、今、ドイツは大変な苦境にあると指摘しています。夢見る政治」を志向するドイツは2022年までにすべての原発を廃棄することを法制化。そして、自然エネルギー(再生エネルギー・風力/バイオマス/太陽光発電など)を普及させ2050年には全電力の80%とする目標を掲げました。

 

  ところが、自然エネルギーは、稼働率が低く、不安定なため、かつ買取制度のため、何と14年間で電気料金が2倍になっているという厳しい現実が横たわっています。
   2000年  2014年
 
   40.7 ⇒  85.0  (月額・ユーロ・標準家庭)
  (5,047円)  (10,540( ∥  円換算  ∥  )

 

  電力価格が上昇しているのに加えて、二酸化炭素を大量に排出する、環境には最悪の石炭発電が43.2%を占めるに至っていることに苦吟しているのがドイツの現実だと認識すべきでしょう。

 

  ところが、わが国の大半のマスコミや政治家は「反原発」だけを唱え、電力エネルギー全体を把握しようとする真摯な姿勢を欠いています。今こそドイツを見習い、折角ですから、ドイツを反面教師として捉えるべきではないでしょうか。電力は国を支える重要な基盤であり、一時の感情やイデオロギーや一部の損得で考えるものではなく、長期にわたる安定的供給を国民経済の観点から考慮すべきものなのです。

 

 ・三好範英氏は、ドイツの歴史観が中国に近似していることを指摘。近年、ドイツが日本を厳しく否定し、中国(中華人民共和国)に深く共鳴するのは、ドイツと中国が同じ大陸国家だからではないかと分析していることに注目したいと思います。

 

 この2著は、政治、経済、文明、歴史観、人間性などを広範囲に分かりやすく説いており、今までのわたし達のドイツへの見方は根本から改める必要があるかも知れません。ぜひ読まれることをお薦めします。

 

 そもそも、どの国であれ、光もあれば闇もあり、一方的な絶賛はすべきではありません。そして先入観も排し、このような本に接することで、事実を淡々と認識することが大切ではないでしょうか。

 

 わが国でも、今まででは考えられないであろう、財閥系大企業である三菱自動車の不正偽装が、現実にあるという事実は押さえなければなりません。社会全体が倫理を喪失しつつあるという現実、倫理に対して鈍感に不感症になっている現実、もはや過去の規範でものごとを判断する時代は終わったとも言えるでしょう。わたし達は、世界の動向に厳しく目を向けるためにも、真剣な学びを通じてゆるぎない自己を確立することが肝要であり、芭蕉の名句“樫の木の 花にかまはぬ 姿かな”をあらためて心に刻みたいと思います。

 

 みなさんはどのようにお考えでしょうか。

 

次回も
時事エッセー
です

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コメント

 世界を俯瞰すると、日本のように国家と民族の歴史が重なる国は稀で、ユーラシア大陸のように古代から民族間の生存競争が厳しい世界では国家を支配する民族とそこに暮らす民族が同一である方が稀なことが多い。しかも時代によって国家も国境も変われば支配民族も変わる。更には同一民族が複数の国に跨っていることも多い。その視点で大陸国家を見れば、国家観を一転させるようなソ連邦の崩壊があってもロシア人の意識が変わらない事は理解できるし、モンゴル人や満州人などの異民族支配の歴史をもつシナ人が国家と無関係に高い民族意識をもち続けたことも理解できる。その上でドイツを省察すれば、ヒトラーが鼓舞したゲルマン優越思想がヒトラーの狂信に発したものでなく、18世紀に始まるヨーロッパ大陸の諸王朝の崩壊の中で他民族に併呑されてはならないというドイツ(ゲルマン)民族の不安にあったと言う事も見えてくる。国家消滅の不安よりも民族消滅の不安であり、それは日本人には実感として理解しにくいものであるが故にヒトラーの異常性を語るものとしてしか理解されない。(*戦後の中国も東西南北の辺境でナチスのとった民族優先政策を進めている。)その点で、ドイツ人の過剰なプライドはシナ人のそれと似ていて当然であり、ドイツが日本にとってきた二枚舌・三枚舌の外交も、国民党政府や中共政府の対日外交と似ていて当然である。個々のドイツ人の勤勉性と民族生存のための外交とは全く別物である。彼らのプロテスタンティズムが日本の勤勉実直の精神と似ていることに喜ぶのは良いが、大陸国家の民族がもつ強烈な民族生存の遺伝子に日本がこれ以上翻弄されることがあってはならない。

投稿: 齋藤仁 | 2016年5月13日 (金) 09時03分

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