カタカナビジネス用語の氾濫を憂う!
532回目のブログです。
“ほととぎす 空に声して 卯の花の 垣根も白く 月ぞ出でぬる”
永福門院(伏見天皇中宮・鎌倉時代・玉葉集)
ほととぎすが空で一声鳴いて過ぎ、地上では垣根に卯の花(ウツギの花)が白く咲きこぼれている、その垣根の向うの空を見ると、今しも月が出てきたところではないか…。
初夏の自然を詠むにあたって、鳥、声、花、色、月を絶妙に織り込んだといわれる有名な和歌です。この和歌をもとにして、歌人・佐佐木信綱は唱歌を作りました。
『夏は来ぬ』 作詞:佐佐木信綱、作曲:小山作之助
明治29年(1896)
卯の花の 匂ふ垣根に
時鳥(ほととぎす) 早も来鳴きて
忍音(しのびね)もらす 夏は来ぬ
さみだれの そそぐ山田に
早乙女が 裳裾(もすそ)ぬらして
玉苗(たまなへ)植うる 夏は来ぬ
橘の 薫る軒端(のきば)の
窓近く 蛍飛びかひ
おこたり諌(いさ)むる 夏は来ぬ
楝(あふち)ちる 川べの宿の
門(かど)遠く 水鶏(くひな)声して
夕月すずしき 夏は来ぬ
五月(さつき)やみ 蛍飛びかひ
水鶏(くひな)鳴き 卯の花咲きて
早苗(さなヘ)植ゑわたす 夏は来ぬ
最後の節では、1番から4番までの歌詞で登場した初夏に関連する季語を並べ、様々な風物詩を通して夏の訪れを豊かに表現しており、唱歌として、歌曲として、多くの人々に愛されているのも肯けます。
日本の自然はいいものですね(もっとも地震さえなければですが…)。そうはいっても、その自然を慈しみ、育て、守っていく努力を重ねなければ、維持することは困難になります。そのためには、国民の全てがお互いに協力し合うことが必要になることは言うまでもありません。
同じようなことで、昨今、言葉の世界でも嵐が吹き地鳴りが生じていることに注目する必要があります。それは「カタカナビジネス用語」の異常な氾濫です。
■ 『真のエクセレント・カンパニーを目指して』
株式会社LIG 代表取締役社長 岩 上 貴 洋
「今、IT業界は革命の時代に突入しています。2000年初頭に起こったパラダイムシフトにより様々なキャズムが取り払われ、各社のコアコンピタンスがコモディティ化された結果、先の見えない不況が我々の眼前に覆いかぶさってきています。LIGは自社の強みでもあるファクトベースにおけるブルーオーシャン戦略、いわゆるボトルネックを排除したベネフィット創出事業にフルコミットする事で、安定的な成長を続けています」
全くチンプンカンプン。ほとんどの人はこの文章を読んで理解できないと思いますので、「超訳」をご覧ください
『真の超優良企業を目指して』
「今、IT業界は革命の時代に突入しています。2000年初頭に起こった劇的な変革により様々な障壁が取り払われ、各社の主力事業や能力に競争力がなくなった結果、先の見えない不況が我々の眼前に覆いかぶさってきています。LIGは自社の強みでもある、現実を見極め未開拓市場を切り開く戦略をとり、障害を排除して価値創出事業に全力で取り組む事で、安定的な成長を続けています」
この超訳ですとすんなりと理解できます。社長の挨拶文は上の章を含めて3章からなり、全643文字のうち、カタカナが239文字で37%を占めています。そのうえ、パラダイムシフト、キャズム、コアコンピタンス、ファクトベース、などのわかりにくいカタカナ英語が頻出しているのです。
Exciteニュースによる使用頻度の高いカタカナビジネス用語の順位は、
① アジェンダ (計画・予定表)
② タスク (課せられた仕事・職務)
③ キャパ (収容能力・容量)
④ エビデンス (言った言わないの証拠・言質)
⑤ アサイン (割り当てる・任命する)
⑥ ペンディング (保留)
⑦ タイト (スケジュールや予算が厳しいこと)
⑧ デフォ(ルト) (基本的・標準的)
⑨ リスケ(ジュール)(スケジュールの変更・納期の延長)
⑩ サマリー (要約)
これを見れば今昔の感有りと言わざるを得ず、わたしなどは、キャパ・ペンディング・タイトくらいを使っただけで他のカタカナ語は多少理解できる程度で、感覚として身体に納まってはいません。
また、ほとんど理解できず困惑したカタカナビジネス用語の順位は
① コミット (約束・決意表明)
② ローンチ (立ち上げる・立ち上がる)
③ ケーピーアイ(KPI key performance indicator)
(重要業績評価指標)
③ エビデンス (言った言わないの証拠・言質)
⑤ アジェンダ (計画・予定表)
⑥ スキーム (枠組みのある計画)
⑦ リスケ(ジュール)(スケジュールの変更・納期の延長)
⑦ コンバージョン (最終的な成果)
⑨ オンスケ (予定どおり進行している)
あとは、エヌアール(NR・No Returnの略・出先からそのまま帰宅すること)・エーエスエーピー/アサップ(ASAP・できるだけ早く)・アライアンス(提携先)・リバイズ(改定・修正)など。一部には聞いたことがある用語もありますが、ほとんど身についていません。
現在、カタカナ語がビジネス界、官界、学界で幅を利かせていますが、本当に言葉の意味を理解しているのかどうか怪しいと思っています。ひとつの例を取り上げてみましょう。
最近、大企業の不祥事が続出し、世間の注目を集めています。東芝の粉飾会計、三菱自動車の燃費データ偽装、東洋ゴムの免震データ偽装、旭化成建材の杭打ちデータ改竄、など枚挙にいとまがありません。
その不祥事が明るみになると、メディアや識者は必ず「コーポレート・ガバナンス」が機能していないからだと言います。しかし「コーポレート・ガバナンス」という用語は経営者の身体に深く刻まれているのでしょうか。コーポレート・ガバナンスは企業統治と訳されてはいるのですが「企業統治」と言う言葉でさえ、身に沁みついた感覚になってはいないと思われますので「コーポレート・ガバナンス」というカタカナビジネス用語ではなおさら浮ついたものになっているのではないでしょうか。
もう、言葉のいいかげんな輸入遊びは止めましょう。用語の位置づけは次のとおりです。
×× 「コーポレート・ガバナンス」
× 「企業統治」
○ 「企業倫理」
○○ 「企業規律」
コーポレート・ガバナンスの意味するところは、企業倫理であり、企業規律であり、その方がよほど理解しやすいのではないでしょうか。最近、カタカナ語が多用されるようになっていますが、これは、官僚や学者や専門家などが下々に高級そうな文言で物事の本質を隠そうと企んでいるとも言えるのです。したがって、未知の用語や無知な言葉は、ありがたがらず、執拗に具体的な説明を求めることが大切です。
東芝や三菱自動車などの不祥事は、もちろん不正行為そのものですが、根底に、コーポレート・ガバナンスという身についていない怪しげな言葉を基軸に経営をすすめていこうとすることにも一因があると考えられます。
「コーポレート・ガバナンス」という身体に深く入っていない用語を使うことは、ものごとの本質を把握できず、結果として不祥事を起こすことにつながります。企業の競争力や収益力の向上と不正行為の防止を総合的に捉え、長期戦略のもとで企業の発展を期するためには、経営者だけでなく全社員、少なくとも幹部社員のすべてが「理解・納得できる用語」を使うべきではないでしょうか。
企業だけではなくわが国のあらゆる組織にガタがきている今日、上層部の方々は危機感と責任感を自覚するためにも「理解できる言葉」を選択し、それを日常化すべきだと考えます。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回も
時事エッセー
です
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コメント
カタカナの氾濫はビジネスだけでなく日常日本語全体にわたって憂うべきものがありますね。既製品といえばすむものを、英語のレディーメードだけでなく仏語のプレタポルテなどというと格好良いと考えること。これは思考における植民地根性が浸透してきたことを意味します。明治の先人たちは、どっと入ってきた欧米の用語を意味を持った漢字で表現することに努力しました。これは日本人に新概念の拡散を容易にしただけでなく、朝鮮人や、日清戦争前後にどっと増えた支那人留学生を通じて、漢字の本国にも取り入れられ拡散していったことを思い出します。
投稿: 岡本幸治 | 2016年5月 6日 (金) 14時15分
全く同感です。小生は経営コンサルタントをしています関係で、この課題について15年以上前から日経新聞への当課題にも係わる意見募集への投稿(警告発信)を機会あるたびに継続していましたが、一切応答なくその他の理由(報道力の劣化への失望)もあり40年以上購読していた日経新聞の購読を中止した次第です。極めて重大な問題ご提起に敬服致します。
投稿: 岡村昭 | 2016年5月 6日 (金) 09時37分