「浮かれるな日本」…ノーベル賞日本人受賞に思う!
555回目のブログです
“明けばまた 越ゆべき山の 峰なれや 空ゆく月の 末の白雲”
藤原家隆(鎌倉初期・新古今和歌集)
夜が明けたならば、また越えていかなければならない山の峰であろうか。空を渡る月が傾いていくあの白雲のたなびいているあたりがそうだろうよ…。
明日もまた山を越えて行かねばならない旅人としての心境が、強い心意気で詠まれたものでしょうか。旅は旅ではありながら、旅は人生でもあり、人生も旅と言われます。“明けばまた越ゆべき山”…これはまさしく人生を表わしたものでもあります。
■ 大隅良典さんにノーベル賞…「細胞自食作用」で
スウェーデンのカロリンスカ研究所は、2016年のノーベル生理学・医学賞を「細胞自食作用(オートファジー)」の仕組みを見つけた東京工業大の大隅良典栄誉教授に授与すると発表。
酵母から人間まで共通する細胞内の根源的な生命現象を遺伝子レベルで明らかにし、がんや神経疾患の治療研究に道を開いたことが評価された。
日本のノーベル賞受賞は25人目、3年連続の受賞、生理学・医学賞では、1987年の利根川進教授、2012年の山中伸弥教授、昨年の大村氏に次いで4人目だ。
(2016/10/3 Yomiuri online一部抜粋)
まことに慶賀すべきノーベル賞の受賞であり、日本人として心から誇りにも思い、大隅教授におめでとうございますとの祝意を述べたいと思います。
いままで、日本人としての受賞者はそれなりに数えられますが、ノーベル賞は基本的には基礎研究の部門であり、将来に亘って明るいかと言えばそうでなく、暗雲が漂っていることを窺わせます。
大隅教授は、受賞決定後の講演で「私の研究は20年前に始めた研究の成果。ノーベル賞学者が日本で毎年出ているなんて浮かれている場合ではない」と述べ、基礎科学を取り巻く現状に警鐘を鳴らし、現在の国の研究支援が短期に成果を求める「出口指向」に強まっていることに強い懸念を示しました。また、大隅教授は、現在の科研費(科学研究費助成事業・2015年度約2,300億円)、特に基礎研究の絶対額が不足しており、現状の2~3倍にならないと後が続かないと強く主張しています。
たしかに、わたしの経験でも、民間企業においては、今や長期にわたる基礎的研究はほとんどしなくなっており目先の成果ばかりを求めるようになっています。そうであれば、大学や研究所での基礎研究を一層充実することが必須であり、そこに資金配分をしなければ、技術立国「日本」も危ういと言わねばなりません。
基礎科学は知的インフラともいうべき極めて大切なものであり、予算が無いと言うならば、50年以上の「基礎研究長期国債」(元内閣参事官高橋洋一氏提唱)を発行してでも確保しなければなりません。なぜならば、基礎研究は、成果が出るまでに30~50年もかかり、公的部門が主導すべきものだからです。
さて、ここで、ノーベル賞における日本の地位を見てみましょう。
【ノーベル賞受賞者・国別】(1901~2015)
順位 国名 受賞者数
1 アメリカ 339(人)
2 イギリス 110
3 ドイツ 82
4 フランス 58
5 スウェーデン 32
6 スイス 27
7 日本 22
8 ロシア 20
9 オランダ 16
10 カナダ 14
10 イタリア 14
12 デンマーク 13
13 オーストリア 12
14 イスラエル 11
14 ベルギー 11
14 ノルウエー 11
17 オーストラリア 7
17 南アフリカ 7
19 アイルランド 6
19 スペイン 6
※(上記の日本の受賞者数には米国籍の南部・中村両氏は含まず)
【ノーベル賞受賞者・人口1千万人あたり】(1901~2015)
順位 国名 受賞者数
1 スウエーデン 33.0(人)
2 スイス 32.8
3 デンマーク 23.0
4 ノルウエー 21.4
5 イギリス 17.2
6 オーストリア 14.0
7 イスラエル 13.9
8 アイルランド 12.7
9 アメリカ 10.4
10 ドイツ 9.9
11 ベルギー 9.8
12 オランダ 9.5
13 フランス 8.9
14 カナダ 3.9
15 オーストラリア 2.9
16 イタリア 2.3
17 日本 1.7
18 ロシア 1.4
19 南アフリカ 1.3
20 スペイン 1.3
これを見れば分かるように、日本は、国の受賞者数は7位ですが、人口比で見れば17位ですから、まだまだ力を入れる必要があります。特に、人口比で見た場合は、アメリカは日本の6.1倍、イギリスは10.1倍、ドイツは5.8倍、フランスでは5.2倍というように、わが日本は、後進国とは言えないまでも、中進国と言ってもいいのではないでしょうか。
そんな実態にもかかわらず、メディアは、常にお隣の韓国や中国と比較して、喜んでいるのです。世界は中・韓・北だけではないわけで、この不様な姿にあきれ返ります。わが国は、ノーベル賞において、中国や韓国を見下ろして喜ぶのではなく、欧米先進国との厳しい競争に勝つための努力を惜しむべきではないと思います。
そのためには、科学技術予算をできるだけ投入し、基礎科学にもっともっと力をいれるべきではないでしょうか。かつて現民進党代表である蓮舫女史(謝蓮舫/renho_sha)が「2位じゃ駄目なんでしょうか?」という愚かな詰問をしましたが、このような国の弱体化を仕方ないこととして容認する科学技術政策は絶対にやめてもらいたいものです。
現在、ノーベル賞の部門は次のとおりです。
・物理学賞
・化学賞
・生理学・医学賞
・文学賞
・平和賞
・経済学賞(1968年創設)
ノーベル賞に、科学・技術の基本である「数学賞」がないことに疑問がありますが、数学の部門では『フィールズ賞』というノーベル数学賞に匹敵する賞があります。受賞条件は、①40歳以下であること、②4年に一度の授与、③共同受賞なし、④一人1回まで、という厳しさですが、何と、日本人が3人も受賞していることに注目しなければなりません。
・小平邦彦氏(昭和29年<1954>)
・広中平祐氏(昭和45年<1970>)
・森 重文氏(平成2年<1990>)
科学技術の進展は、わが国にとって最も重要なことのひとつであることに疑いはありません。そのためには、実態を冷静に観察することが必要ではないでしょうか。ノーベル賞でも、人口比で見れば、何と日本はアメリカの6分の1だという現実を直視し、国をあげて科学技術の一層の振興をはかることが重要だと考えます。
政府も含め、わたし達国民は“異能・偉能の人”を高く評価し、その人たちを全面的に支えていく考えを持とうではありませんか。日本人の可能性はまだまだあると確信しています。
みなさんはいろいろなご意見をお持ちでしょう。どのようにお考えでしょうか。
次回も
時事エッセー
です
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