「プレミアムフライデー」…“働くこと”を考える!
565回目のブログです
“人間が幸福であるために、
避けることのできない条件は、勤労である”
(トルストイ・ロシアの文豪)
いよいよ今年も残り少なくなってきました。平成28年、2016年、世界の情勢は変化に富んだというよりも激動の坩堝にあったというべき年であり、つい先日も、安倍首相とプーチン大統領との日露会談が行われました。先般はトランプ次期米大統領が選ばれたばかりであり、政治の世界は、まさに「一寸先は闇」不透明極まりない状況です。
国内においては、色々な課題が山積しており、そのひとつとして、政府は、働き方改革を政策にあげています。ニュースから見ていきましょう。
■ 月末の金曜日は午後3時退社
消費促進を
停滞する消費を盛り上げようと、買い物などを促す全国的なキャンペーンを検討している政府と経済界は12日、初めての協議会を開き、来年2月から月末の金曜日を「プレミアムフライデー」と銘打ち、企業に対して従業員が午後3時をめどに退社できるよう対応を呼びかけるなどの方針を決めました。
(12/12 NHK)
政府は、消費活動が活発になるなら、とりあえず出来ることからやろうと言うのでしょうが、労働時間を短縮したところで果たしてそれだけの成果がでるのか、はなはだ疑わしいと思います。
というのも、12/2小ブログ「賃上げあるのみ…内部留保課税の断行を!」で主張したように、労働分配率が下がり、労働者の賃金が名目的にも伸びなければ、時間はあっても消費の増加は見込めないのではないでしょうか。(企業の内部留保金の増額分の半分でも賃金に回すことが先決であり、口当たりの良い金曜日3時退社というフレーズは身を切らない甘い方策です)
問題は労働時間ではありません。わが国は、今まで祝日(national
holiday)をどんどん増やし、祝日の多さは今や世界で2番目になっているほど。加えて休日(振替休日/盆休み/年末年始/創立記念日など)もかなりあることを考えれば、単に月1回金曜日を時間短縮することでものごとが解決するとみるのは机上の空論ではないでしょうか。
それより問題なのは、労働時間を一層短くし、労働者を楽にさせ、労働よりも娯楽をとの風潮を日本全体に蔓延させることであり、それで果たして世界を相手に勝てるのかどうか大いに疑問が残ります。
わが国の企業の問題点は、労働生産性が低いことにあります。これに大胆なメスを入れることが個々の企業の成長につながると共に、日本経済の底上げに大きく貢献すると思われます。向けるべき視点は「労働生産性」であり「労働時間」ではありません。
こういう議論をすると、実態として残業時間が多いではないかという指摘があります。
残業時間について、11月7日、わが国最大手広告代理店「電通」社員(高橋まつりさん)が過労自殺した問題で、電通が全国的に家宅捜索をうけ、書類送検された件について考えてみましょう。
高橋さんは、電通労使協定で決められた残業時間(所定外70時間)を大幅に超えており、過労死と言うことであれば、実際は140時間以上だったと報道されています。打刻カードには隠蔽ごまかしがあったのは明白で、もしも残業時間だけが自殺の原因だとすれば、仮に計算すると(平日22日×残業6時間)+(土日6日×臨出8時間)=180時間/月、それが6ヶ月以上も慢性的に続いたと見られます。
電通は定常的に違法な労務管理をしていたようで、由緒ある大企業として、法律を蔑ろにしたBlack企業と言われても反論できません。
大手有名企業といえども、まだまだこんな手合いが存在していることは否めないことは事実ですが、ただ、残業だけ無くなればいいというものでもないのです。私の推測では、過労死、自殺の裏には、複数上司の『パワハラ』(Power Harassment/和製英語)があると睨んでいます。なぜならば、単なる残業が100時間以上あっても、明朗な雰囲気の職場で、やり甲斐があり、伸び伸びと仕事に励んでいる時は、そんなに疲労感はないものです。このことは経験した人も結構多いのではないでしょうか。
職場内において上司などが、その優位な立場から部下などに精神的・肉体的な苦痛を与える行為をパワハラといいますが、厚生労働省は、パワーハラスメントの典型例を次のように示しています。
① 暴行・傷害(身体的な攻撃)
② 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③ 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
④ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、
仕事の妨害(過大な要求)
⑤ 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を
命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
⑥ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
パワハラなんて、どこの会社でもあるように思います。企業経営幹部はみずからがパワハラの実行者になることを戒め、社内でパワハラが発生、蔓延しないよう日ごろより目配りが大切です。
さて、ここで“働くこと”の意味合いを考えてみたいと思います。働くこと、労働には二つの言葉があります。
(a) 苦役(くえき) Labor
(b) 仕事(しごと) Work
「苦役」という言葉は今ではほとんど使われません。苦役は、つらく苦しい労働のことであり、大昔の奴隷の労働を意味しています。Hard Laborとは、刑罰として科される重労働のことです。いやいや労働することであり、苦役が目的になることはありません。
もう一つの「仕事」とは、何かを成すための行動であり、時には職業をも意味します。仕事は前向きな労働であり、それ自体に大きな価値を見出しうるものです。
わたし達日本人は、今までは概して“仕事”に価値を認め、職人的に黙々と職務を果たしてきました。仕事自体を大切に考え、厳しいながらもそこに楽しみを見出してきたからです。
それを、単純に時間だけでものごとの軽重を問おうとする姿勢には大いなる疑問を感じます。政府・官僚の労働観が歪になって来ていることに強い危機感を持たざるを得ません。
わが国が世界に羽ばたくためにも“世界に誇る”ハードを造り、ソフトを創る気概が必要不可欠です。そのためには、正しい日本的な労働観・仕事(Work)を保持し続けることが肝要ではないでしょうか。冒頭に掲げたトルストイの言う“勤労”も同じ意味合いだと考えます。
軽佻浮薄な「プレミアムフライデー」を考えてみました。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回は
時事エッセー
です。
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