総選挙と芭蕉の句!
607回目のブログです
“おもしろうて
やがてかなしき 鵜舟かな”
芭蕉(江戸前期・俳聖)
有名な長良川の鵜飼。鵜飼は月のない闇夜に、舳先(へさき)に赤々とした篝火(かがりび)を焚き、鵜匠が12羽の鵜を手綱でさばき鮎を獲りながら、何艘も川上から川下へ流れ下ります。その姿を目の前に見た見物客の興奮は冷めやらず、最高潮に達しますが、やがて、鵜飼舟は川下に去り、闇の彼方に消えていきます。まさに水上の幻想世界ともいうべきでしょうか。
芭蕉の句は、歓楽の後のたまらなく悲しい気分をあらわしたものと思いましたが、もっと深い意味があるようです。芭蕉の有名なこの句には前段がありますので、それを読んでみましょう。
【原文】
「岐阜の庄、長良川の鵜飼とて、世にことごとしう言ひののしる。まことや、その興の人の語り伝ふるにたがはず、淺智短才の筆にも言葉にも尽すべきにあらず。『こころ知れらん人に見せばや』など言ひて、闇路に帰る、この身の名残惜しさをいかにせむ。」
【現代文】
「岐阜の長良川で行われる鵜飼は、世間で大変な評判になっている。実際に見ると、おもしろさは、まことに世間で言われているとおりであり、智慧が浅く学問のない私などはとても書き表せないほどだ。『風情を理解できる人に見せたいものだ』などと口にしながら闇路を帰った。この名残惜しい気持をどうしたらよいかわからない。」
キーワードは“闇路に帰る”。この句は、単に歓楽の後の哀情の深さを表わしたのではなく、篝火のもとでの興奮冷めやらぬ遊興により命が高揚したとしても、その一時の幻想が消え去れば、鬼の待ついつもの地獄へ向かって帰らねばならない悲しみを詠んだものとも言われています。
さて、10月10日、総選挙(衆議院議員の全員を選ぶために行われる選挙のこと)の公示がなされ、いよいよ国政選挙の火ぶたが切られました。10月22日投票、議席数は465議席、過半数は233議席。立候補者はそれぞれ、政党に属していようが、無所属であろうが、これから2週間死に物狂いで選挙戦を戦っていくものと思います。
例によって、今回も、希望の党を筆頭に「改革」「改革」の言葉の連呼となっていますが、改革という言葉に世間は飽きと白い目と不信を持っているのではないでしょうか。
翻って見ますと「改革」のスタートは平成5年(1993)の小沢一郎氏の新生党からであり、自民党と官僚政治の打倒のために、二大政党、小選挙区制、政治主導の構想を掲げました。次に平成13年(2001)小泉首相は、劇場型政治を演出し、新自由主義にもとづく徹底した構造改革を。その後民主党政権はマニフェスト選挙で政策選択選挙を。そして、おおさか維新の会は大阪市議会・大阪府議会の既得権改革を。…というように連綿と続いてきました。
この25年間「改革」を叫ばない政治はなかったと言えますが、果たして真の改革がどれほど実現したのでしょうか。多数の国民は、全体的に考えて改革というものの実態が実の少ない存在になっていること知ってきたのではないかと思います。
今回の総選挙でも、改革を標榜しない政党はありません。そして、台風の目である小池代表が率いる希望の党などは、従来手法である「劇場型政治」と「ポピュリズム」(人気主義)を前面に押し出していますが、果たしてどの程度成果を得ることができるか注目したいと思います。
大半のマスコミは「大義なき選挙」と位置づけていましたが、総選挙は基本的には政権選択選挙であり、常に政権選択という大義を有しています。今回の選挙を分かりやすく言えば、安倍政権の内外諸政策について○×をつけるものです。
①【北朝鮮危機】
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)とアメリカ合衆国(アメリカ)との緊張関係が、今年末から来年にかけて、いよいよ極限に達しようとする時、わが国の外交の難しさは過去に較べることのできない程の危機のクライマックスを迎えます。この舵取りをできる日本国の首相には、トランプ米大統領やプーチン露大統領やメルケル独首相といつでも話ができる安倍晋三首相が相応しいのか、あるいは他の政治家の誰が良いのかを、具体的に選ぶことが最も重要なポイントとなります。
②【日本経済】
10月2日の日銀短観を見れば、製造業大企業の好調、特に利益と雇用の好調が目立ちます。数字で見てみましょう。
≪経常利益≫
平成29年(2017)上期 前年同期比23.1%UP
平成28年(2016)下期 前年同期比33.1%UP
≪経常利益率≫
平成29年度(2017)計画 7.47%
平成18年度(2006) 6.76%(リーマンショック直前)
平成 元年度(1989) 5.75%(バブル景気ピーク)
これを見ると、現状の日本経済は間違いなく好調に推移しているように見えます。いわゆるアベノミクスと称される安倍政権の経済政策は雇用の大幅改善、大企業の収益増加として成果が出てきていますが、中小企業問題、大胆な成長戦略、労働者所得の向上、労働分配率、消費水準、などは未だしの感はぬぐえません。
国内問題は、政治家の姿勢のこともありますが、何と言っても経済の活性化による生活水準の向上にあります。アベノミクスを推進する安倍政権の経済政策について○×の判定を下し、×であるならばどの政党の経済政策が良いのかを判断することが第二の重要なポイントです。
③【憲法改正】
現行の憲法では、わが国は、この厳しい国際環境の中で生きのびて行けないのではないかと思います。のんびり構える時間も余裕もないのが実態でしょう。憲法9条でわが国を守るのか、綜合的な安全保障政策で守るのかが、今、問われており、憲法問題が第三のポイントです。
今度の総選挙でのポイントは、上記の3点に絞られます。政治家には、わたし達国民が納得して選ぶことができるよう、劇場やポピュリズムから離れ正々堂々とおのれの主張を戦わせていただきたいとのぞみます。
今回の選挙が、花火や鵜飼のような一時の高揚感に惑わされ、夢や幻を見るだけで、芭蕉の言う“おもしろうて
やがてかなしき ………”とならぬよう、自分で考え、自分で行動する人になりたいものです。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回は
時事エッセー
です。
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コメント
「国難」来りて「翼賛」選挙、日本丸に波高し。
ベストもベターも無いとき、棄権するのは、もっと危険か?
これまでになく、投票行動に悩むよう選挙です。
投稿: kawaski akira | 2017年10月13日 (金) 11時29分