米朝首脳会談…その毀誉褒貶を考える!
644回目のブログです
“白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあおにも 染まずただよふ”
若山牧水(明治18年~昭和3年・歌人)
雲ひとつない空の青、深く澄み渡る海の青、それに染まらずに漂う白鳥の姿は洵に哀しいではないか、哀感ただよう孤独な白鳥よ…。
牧水自らの、清純な魂、高い志、多感な青春のすがたを白鳥に託した和歌であり、豊かな色彩、リズミカルな調べ、清らかな心が一体となった名歌として、人口に膾炙しているのも肯けます。
牧水のこの和歌に託した高く清らかな志を思うにつけ、現実の政治のキナ臭さには、何とかならないのかという絶望的な気持ちになりかねません。考えても見てください。国内の政治は、もう1年半も連日連夜、いわゆるモリ・カケばかりが跋扈しており、常軌を逸しているのではないでしょうか。これは全く、明瞭な政治というものではなく、奇怪な闇夜の鍋を弄んでいるわが国リーダーの堕落を示していると言えます。
目をわが国周辺にめぐらせば、何はともあれ、北朝鮮のことを真剣に考えなければなりません。そのエポックメーキングが6月12日、シンガポールでの「米朝共同声明」であることは周知の事実です。米朝が署名したこの共同声明については、毀誉褒貶が入り混じっていますので、ここで整理して考えて見たいと思います。
【米朝共同声明】の骨子(4条項)
(1)アメリカと北朝鮮は、平和と繁栄に向けた両国国民の願いに基づいて、新しい関係を樹立するために取り組んでいくことを約束する。
(2)アメリカと北朝鮮は、朝鮮半島に、永続的で安定した平和の体制を構築するため、共に努力する。
(3)2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組むことを約束する。
(4)アメリカと北朝鮮は、朝鮮戦争中の捕虜や・行方不明の兵士の遺骨の回収に取り組むとともに、すでに身元が判明したものについては、返還することを約束する。
これに関してのアメリカのメディア、特にMSM(メイン・ストリーム・メディア/主流メディア)は、すべてが否定的であり、トランプが敗者、失敗を犯すと痛烈に批判しています。海外の主要メディアの評価は次の通り(ニュースの視点/大前研一より)
ニューヨーク・タイムズ:「声明の内容があいまい」
ウォール・ストリート・ジャーナル:「中身がない」
ワシントン・ポスト:「具体性のない声明」
USAトゥデイ:「韓国に不意打ちを食らわせた」
ファイナンシャル・タイムズ:「勝者は金正恩委員長」
エコノミスト:「トランプはショーマンシップを発揮」
確かに、主要メディアが主張するように、今回の声明では、米朝関係の肝でもある「北朝鮮の非核化」が具体化していないことは明白であり、また「非核化」の定義が北朝鮮と米国ではズレがあるのではないかと指摘されています。
当初、米国が目指す北朝鮮の非核化の原則は、CVID(Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement・完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)ですが、それが盛り込まれていないのです。
更に、米国は、米韓合同軍事演習を中止し、近い将来「在韓米軍」の撤退をほのめかすなど、外から見れば、100%北朝鮮のペースのようでもあります。
このように見てくると、トランプ大統領は、米国軍事力の善意の恫喝を背景に、金正恩委員長を信頼することで、非核化を実現できることを確信しているものと判断せざるを得ません。
しかしながら、過去5回、北朝鮮は非核化の約束を破ってきています。
1回目:韓国との約束 を破る(1993年)
2回目:米国との約束 を破る(2003年)
3回目:6ヶ国協議での約束 を破る(2006年)
4回目:6ヶ国協議での約束 を破る(2009年)
5回目:米国との約束 を破る(2013年)
これを眺めれば、北朝鮮では、約束は破るためにあることになります。約束に対しての誠実さなどは微塵もないことがわかるのではないでしょうか。
こんな不誠実な北朝鮮に対して、偉大なアメリカ合衆国が、またも、翻弄されて物笑いの種になるのでしょうか。アメリカの主流メディアは、トランプ大統領に対して、口汚くののしっていますが、主流メディアが間違っていないとは言えません。
トランプ大統領が当選した時のことを思いだして見てください。トランプ氏を酷評した主流メディアのすべてが予測を誤り、大恥をかいたことを。
トランプ大統領と金正恩委員長の会談は第1歩であり、すでに、第2弾、第3弾の日程も決まっており、動きを早めていると言われています。トランプ大統領が北の非核化に失敗するとすれば、トランプ大統領が外交上でピエロを演じたことになります。まさかそんなことってあるのでしょうか。
メディアが勝って、トランプ大統領が負けるのか、あるいは、トランプ大統領が勝って、メディアが敗北するのか、まったく予断は許せません。
わたしは、ひょっとすれば、北朝鮮は非核化(核兵器を無効にする)を果し、経済活性化への道を進むのではないかとも思っています。なぜならば、核は放棄しても「化学兵器」「生物兵器」「弾道ミサイル」があれば、軍事大国としても悠然と闊歩できると考えてもおかしくないからです。
そうは言うものの、約束の破棄と背信は北朝鮮の常。ウォール・ストリート・ジャーナルは「北朝鮮政府は今月のサミットで、米国と非核化の約束をしたにも関わらず、北朝鮮は、早いペースで各施設をアップグレードしていることが、新たな衛星写真の分析で示唆された」と報じています。……。
いずれにせよ、北朝鮮は世界最貧の悪辣な個人独裁国家であることを忘れるべきではありません。どのような事態になっても厳しく対処することが肝要ではないでしょうか。
ところで、わが国のマスコミを見れば、北朝鮮への融和ムードが演出され、何か明日にも、朝鮮半島に真の平和が来るような雰囲気が漂います。
こんな状況に呼応して、さっそく、政治家が動き出しました。「日朝国交正常化推進議員連盟」(日朝議連・会長・自民党/衛藤征士郎氏)は、21日会合を開き、自民党から共産党まで約45人の国会議員が出席。
彼らの主張は、米朝首脳会談でアメリカが国交正常化に踏み出した場合「日本だけが取り残される」「バスに乗り遅れるな」です。“バスに乗り遅れるな”…いつか聞いた言葉であり、マスコミに持て囃されるこの軽薄な言葉で誤った選択をした例は数多くあります。前のめり、焦り、彼らの姿勢そのものに問題があると言えるでしょう。
さいごに。わが国は、米国と日本の国益は常に一致するのではないことを前提として、アメリカに決して追従せず「拉致・核・ミサイルの包括的な解決がなければ、北朝鮮支援は行わない」という従来方針を堅持すべきです。それが拉致解決と安全確保への正道ではないでしょうか。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回は
時事エッセー
です。
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コメント
日朝交渉の最優先課題は二つある。一つは「拉致問題の完全解決」だが、交渉に際しては「金正日自身が拉致を認めた事実」をもとに、北朝鮮側に残る拉致した日本人の全記録の提出と、生存者の帰国を具体化すること。もう一つは「核全廃」である。「ミサイル」で化学爆弾を撃つ可能性もあるが、これは日本独自に対処法を考えるべきだろう。即ち戦時国際法でも違反する武器の使用の可能性があれば、その対応策は同盟国に頼らず日本独自にとるべきであり、そのための法整備や軍備拡充は国民の生命と財産を守る政府の責任である。与党内にも国交優先を唱える政治家がいるが、国際的犯罪である拉致問題を放置しての国交など認めることはできない。
投稿: 齋藤仁 | 2018年6月29日 (金) 15時45分