恐るべき中国のシャープ・パワー…日本の対抗策は!
667回目のブログです
“この山は たださうさうと 音すなり 松に松の風 椎に椎の風”
北原白秋(明治18~昭和17・詩人・歌人)
今、山の木立に風が吹き付け、そうそうと風の音がしている。しかし、深く耳をそばだてば、その風の音の中にも、松には松の風音、椎には椎の風音がしている…。
いよいよ、平成最後の師走に入りました。今年は、国内的にはいろいろなことがありましたが、それらを圧倒的に凌駕するのが、世界情勢の激変です。その最たるものが「米中覇権戦争」とも言うべき事象ではないでしょうか。
中国の100年マラソンとも言われる世界覇権を目指した世界戦略における数々の策略、それがまさに結実しようとする寸前に、米国トランプ大統領が待ったの大声を発し、中国の世界覇権に真っ向から立ち向っている段階。…それが今でしょう。
中国の指導層は“戦争は詭道”なりの孫子の教徒であり、
・「政治は、武器を使わない戦争」
・「戦争は、武器を使う政治」
というドグマを古来より信じていますので、意識の中では、常に「戦争中」であり「詭道」(=うそ)が肯定されていることを認識しなければなりません。
更に、中華人民共和国人民解放軍における政治工作条例には、三戦の戦術が掲げられています。三戦とは、①世論戦、②心理戦、③法律戦、のことであり、戦わずして中国に屈服するように仕向けることを目的にしたものです。
また、エコノミスト誌によれば、中国の世界戦略・世界工作のパワーに3種類があることを指摘しています。
①ハードパワー(軍事・経済力)
②シャープパワー(破壊活動・弱いもの苛め・圧力)
③ソフトパワー(文化・価値観)
さて、企業において広報宣伝があるように、国家においては、パブリック・ディプロマシー(Public Diplomacy・PD・広報文化外交・戦略的対外発言)が極めて重要な地位を占めるようになってきています。
それを如何なく発揮してきているのが中国であり、今や、上記の②シャープパワーと③ソフトパワーとを明確に分けるのではなく、渾然一体のように駆使し、世界工作に邁進しています。その姿をランダムに取り上げてみましょう。(国際公共政策研究者の桒原響子女史の論稿などを参考)
・中央アジアは、旧ソ連の構成国が多く今もロシアの影響下にあり「ロシアの裏庭」と呼ばれていますが、ここに中国が、いわゆる「一帯一路」構想の経済的影響力を拡大しようとして、文化政策を強化しています。
その証拠に、中央アジアには「孔子学院」が13(カザフスタン5、キルギスタン4、タジキスタン2、ウズベキスタン2)設置。習近平国家主席夫人がここを訪問するなどで力を誇示。まさに、今や、中国とロシアのシャープパワー合戦が露わになってきました。
・今まで、中国は、フィリピン、マレーシア、シンガポールなど東南アジアに露骨にシャープパワーを仕掛けてきましたが、フィリピンのドゥテルテ大統領、マレーシアのマハティール首相やシンガポールは、中国のやり方(海洋進出・中国主導経済・スパイ活動・人権無視など)に対して、厳しく異を唱え、距離を置くようになっています。
・中国の太平洋島嶼国地域への影響力拡大が顕著。その狙いの一つは、現在台湾と国交を結んでいる太平洋島嶼国6ヶ国(キリバス・ソロモン諸島・ナウル・ツバル・パラオ・マーシャル)に対して、台湾との国交断絶を狙うもの。二つは、この地域の豊富な海洋資源や鉱物資源。天然ガス、リン鉱石、レアメタルなどの大規模開発。三つ目は、第1列島線、第2列島線でのアメリカ軍を牽制すること。これらに対して、経済援助を通して国家的野望を果そうとしていることは明らかです。
・アフリカに対しても、中国のシャープパワーは顕著。孔子学院は増え続け、2018年時点で何と54ヶ所であり、既に140万人が授業を受けたとのこと。
世論工作も着々。アフリカ人記者3000人の育成を表明。アフリカのメディアに間接的に出資し、影響力を保持、反中記事は即時削除するなどの操作を行っています。例によって、ウィグル、チベット、人権、などの反中記事はご法度。
・アメリカについて。まず、中国が米国に設置した孔子学院は110。全世界で525のうち、21%を占めますから、いかに米国に対してシャープパワーを発揮しようとしているのかがわかります。しかし、アメリカも今ごろになってやっと気づき、孔子学院を閉鎖する大学が増えてきました…シカゴ大学・ペンシルバニア大学・イリノイ大学・テキサス農工大など。
トランプ政権は「米中貿易戦争」を仕掛け、人民解放軍の軍事技術者が創業した中国の通信機器大手「華為」(Huawei/ファーウエイ)などの通信機器を高度情報スパイの可能性から販売禁止を企図しています。
問題は更に広がり中国の米国シンクタンクへの資金提供が明るみに。中国中央統一戦線工作部の配下と言われる中国NPO団体「中米交流基金」が、ジョンズホプキンズ大高等国際問題研究大学院・ブルッキング研究所・戦略国際問題研究所(CSIS)・大西洋評議会・カーネギー国際平和基金など、米国の外交政策策定に多大な影響力を持つ多数のシンクタンクと研究活動などを通じて提携していたと言われます。
更にまた、中米交流基金がワシントンで数十万ドルの予算でロビー活動を行なったり、中国中央統一戦線工作部が全米の巨大留学組織「中国学生学者連合会」と連携してスパイ活動に準ずる活動を行っていると指摘されています。
上記は中国シャープパワー(破壊活動・弱いもの苛め・圧力)のほんの一部にしか過ぎません。今や、東南アジア、アフリカ、ヨーロッパ、中東、中央アジア、中南米、北米など、地球上のすべての地域に襲い掛かっていると言えるでしょう。特にアメリカに対しては特段の硬軟含めたあらゆるシャープパワーを発揮しているものと考えなければなりません。
翻って、わが日本国はどうでしょうか。スパイ防止法さえ無い日本は、世界の国からスパイ天国と蔑まされているにもかかわらず、依然として防御態勢の確立にはほど遠い実態ではないでしょうか。このままで、中国や北朝鮮・韓国からの工作活動に立ち向かっていけるのかどうか、大いに疑問があります。少なくともスパイ防止法を早急に成立させる必要があると判断します。
ところで、わが国は世界へどのような展開をしているのでしょうか。わが国は中国の様なシャープパワーに属する破壊活動は全く眼中になく、専らソフトパワー的な展開に限定されています。それについて見ていきましょう。
日本の外交にパブリック・ディプロマシー(広報文化外交)が必要であることは論を待ちません。そのために政府はおよそ800億円の予算を投入。その内、300億円で、『ジャパン・ハウス』をオープンしました。ようやく昨年からです!…。
『ジャパン・ハウス』
1号館 :サンパウロ 平成29年(2017) 4月
2号館 :ロサンゼルス ∥ 12月
3号館 :ロンドン 平成30年(2018) 6月
わが国のパブリック・ディプロマシーの目的は、日本の正しい姿や魅力の発信、親日派・知日派の育成、在外公館による発信の強化ですが、このジャパン・ハウスを通じて、領土保全、歴史認識、積極的平和外交などのわが国の歩みと主張をより強く発信してほしいものです。
中国の孔子学院は大学で525、小・中・高で1,113、合計1,638ヶ所。それに対してわが国はわずかに3ヶ所。今後、大幅に増やすと共に、中身の充実を期さねばなりません。外務省は、今までの至らぬことを猛省し、世界に向けて、日本の立場を理解してもらうよう、凛とした姿勢であたってもらいたいと切望します。
冒頭の和歌にある“松に松の風 椎に椎の風”があるように“日本には日本の風”があります。
外務省は当然のことながら、わたし達も、日本の風の音を理解するとともに、世界の人に聴いて貰うように努めなければならないのではないでしょうか。
みなさんはどのようにお考えでしょうか
次回は
時事エッセー
です。
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コメント
第二次世界大戦後に出版されたG・オーウェルの「1984」は国家が国民の生活から精神まですべてを管理する社会、それはレーニン・スターリンの創ったソビエト連邦や、ヒトラーの創った国家社会主義ナチスを土台としたフィクションだった。
だがパソコンやAIなどの進化した情報機器が個人生活に浸透した今日、「1984」の社会は中国などの全体主義国家で実現している。北朝鮮やキューバ、ベネズエラなどの独裁国家も国民すべてがスマホを保有できるほどに豊かになればなるほど国民の管理は楽になる。つまり富の豊かな社会・国家と、精神生活の豊かな社会・国家は別である。国民の精神まで政府に隷従させる管理社会から守る方法はただ一つ、それは政治制度の「自由主義と民主主義」を墨守することである。中国の虚偽に虚偽を重ねた宣伝工作は唾棄すべき所業だが、古代から「白髪三千丈」の誇大宣伝の国である。その習性より世界の人々が戦慄すべきは「1984」を21世紀社会に実現させている情報機器による国民精神の完全管理である。なおソ連は崩壊したが、ロシアの現状は「偽装民主国家」であって実態は「準全体主義」のプーチン専制王朝である。こうした「偽装民主制度」を許さない民意の高さも国民の自由と民主主義への拘りが本物かどうか、政府による情報管理の容易な現代、日欧米の自由社会の国民も問われている。日本政府には歴史の客観的事実を世界に発信することも重要だが、同時に欧米豪印などの自由主義諸国と連携しながら、管理された情報を糾弾する「自由主義の倫理」を世界に発信してほしい。
投稿: 齋藤仁 | 2018年12月 8日 (土) 09時43分