民主党政権は“悪夢”か否か? …スローガン政治に思う
678回目のブログです
“七里浜 夕日漂ふ 波の上 伊豆の山々 果てし知らずも”
西田幾多郎(哲学者・京大教授)
ゆったりとした時の流れを感じさせてくれるのが鎌倉の七里浜である。波の上には今まさに夕日が沈み赤く輝いており、伊豆半島の山々が果てしなく続いている。わが人生は波乱万丈ではあったが、今は安らぎの境地に立っている…。
「人間の至福は高屋にあらず、風景にあらず、ただ無事平常の中にあり」の心境を詠んだものであり、七里ガ浜にはこの歌の歌碑が建てられています。
世界的に高名な哲学者である西田幾多郎(明治30年~昭和20年)は、若い時、姉・弟・娘二人・長男を亡くし、父の事業の失敗で破産、妻との離縁など、多くの苦難を味わっていますが、晩年の鎌倉での生活では心を安んじたと言われています。
“人間の幸せは、無事平常のなかにあり”という言葉は、心の荒んだ現在社会に生きているわたし達にとって教えられるところ多いものがあります。
さて、内政、外政に厳しい環境が続く中、わが国の政界が近年、混乱、混迷の坩堝にあったことは紛れもない事実と言えるでしょう。去る2月10日、自民党大会の演説で、安倍総裁(首相)は「民主党政権時代は悪夢であった…」と発言、これに対して野党の幹部、とりわけ岡田克也氏(立憲民主党会派)は国会討論で「悪夢というレッテルを貼るべきではない。発言を撤回せよ」と舌鋒鋭く反論、追及しましたが、安倍首相は「民主党政権時代は少なくともバラ色ではなかった」とし、発言の撤回を強く拒否しました。
それでは、ここで、民主党政権時代がどんな内容であったか振り返ってみたいと思います。
民主党政権時代とは、鳩山由紀夫 菅直人 野田佳彦の3人が首相の大権を担った時代であり、平成21年(2009)9月~平成24年(2012)12月の3年3ヶ月の期間を言います。
この民主党政権は圧倒的な国民的人気とマスメディアの支持を背景に成立したものですが、ひとつには、首相などの上に立つ政治家の「国家観」の薄っぺらさや「危機管理」の未熟さなどから、ふたつには、易しい時代に恵まれず厳しい「時代」に遭遇してしまったことにより、僅かに3年3ヶ月で終了となりました。
人気は移ろいやすいもの。日本国を守る姿勢がはっきり見えず、バラ色の公約は極端に色褪せたため、国民の支持は急降下し、この期間を「失われた3年」と今でも揶揄されるほどです。その結果、民主党は四分五裂の状態になり、現在は、立憲民主党・国民民主党・自由党・希望の党・無所属などに分かれています。
民主党の特徴は素晴らしい「スローガン」「キャッチフレーズ」「キャッチコピー」にありました。
・「マニフェスト」―甘くて美味しい政権公約
・「埋蔵金」―今すぐに使える隠された予算・10数兆円あり
・「コンクリートから人へ」―人工物から生きた人間を主体に
・「2位じゃだめなんですか」―日本の科学技術振興を抑制
・「最低でも県外」―米軍普天間飛行場の移設先
・「中国人船長釈放!」―尖閣での中国漁船と日本巡視船衝突
・「現地視察最優先!」―福島原発事故・首相官邸による人災
まだまだいろいろありますが、思いだすと言うよりも頭にきちっと記憶されているものばかりです。このスローガンはことごとく裏目、虚偽、安易、夢想、実念であり、覚悟をもって「最低限の」国家を守る・国民を守る・未来への針路を示すというリアルポリティックス(現実政治)が欠けていたと思います。
それは、おそらく、政権奪取の可能性が高くなりつつあった世間の空気から、民主党内の雰囲気が全体的に高揚感で満ち溢れ、冷静な判断が全くできなかったこともあるのでしょう。余りにも空虚なスローガンが多くはありませんか。
外交面でも見ていきましょう。
民主党政権で最初の首相となった鳩山由紀夫氏は、悪名高いスローガン「最低でも県外」という、実行不可能な無責任な言葉で沖縄県民を弄び、結果的に普天間基地の移設問題を複雑にしたまま現在に至っています。鳩山首相の責任は極めて大きいと言わざるを得ません。
そして加えて、普天間基地の移設問題に関して、アメリカのオバマ大統領に「トラスト・ミー」と断言したのです。ところが何も進捗できず、米大統領に嘘をついたことになりました。史上最悪の総理大臣と言われるのも肯けるところです。
また、鳩山内閣時の小沢一郎幹事長は483人の使節団を率いて訪中、胡錦濤主席に全員握手してもらいました。TV放映されたこの時の胡錦濤主席の小沢一郎氏ら483人に対する憐れみの表情は、いまだに私の脳裏に焼き付いています。
そして、あろうことか、小沢一郎氏は胡錦濤主席に対して「私は、人民解放軍の野戦軍司令官であります!」と宣言したのです。まさに“属国宣言”そのもの。日本国が民主党政権により中国共産党の軍門に下った瞬間でした。
次の菅政権の時、平成22年(2010)「尖閣諸島中国漁船衝突事件」が発生。証拠映像があるにも関わらず隠蔽し、船長を釈放しました。義憤に駆られた海上保安官・一色正春氏は、映像をYouTubeに投稿、事件があからさまになり、国民の怒りは怒涛の如く弱腰・屈中の民主党菅政権へ向かいました。
一方、中国はこうした日本を弱腰と判断し、尖閣諸島の領有権は中国にありというプロパガンダを積極的に世界に発信し続けています。そして今も中国漁船軍団が虎視眈々と尖閣領域を侵略しようとしていることを知らねばなりません。
さいごの野田政権の時、平成24年(2012)ロシアのメドベージェフ首相が北方領土(国後島)に上陸、国民は激怒。また韓国李大統領が竹島に上陸「日王は韓国に来たければ土下座して謝罪せよ」と暴言、日本国民の怒りは沸騰しました。その後、日韓関係は悪化の一途を辿っており、今や「Point of no return」(帰還不能点)の状態ではないでしょうか。
上で見てきたように、外交面においては、民主党政権時代は最悪だと言っても過言ではありません。①日米関係、②日中関係、③日露関係、④日韓関係、全てにおいて悪化、戦後最悪の状態になったことは断言できると思います。
悪夢の反対は吉夢あるいは瑞夢ですが、民主党政権を吉夢と言うことはできません。「悪夢」と表現するよりも「最悪の事実」という方がぴったりと来るのではないでしょうか。
これもそれも、民主党政権が国家観をもたず、スローガン政治で理想を志向したからに他なりません。(もっとも、近年、自民党がスローガン政治の様相を見せていることに対し警戒が要りそうです。)
さいごに、批評家・小林秀雄の含蓄のある言葉を引用します。
“理想というものは一番スローガンに堕し易い性質のものです。自分で判断して、自分の理想に燃えることの出来ない人はスローガンとしての理想が要るが、自分でものを見て明確な判断を下せる人にはスローガンとしての理想などは要らない。若しも理想がスローガンに過ぎないのならば、理想なんか全然持たない方がいい。”――『歴史の魂』
本当の理想を持たない人ほどスローガンで理想を語るようですから、スローガンに容易に惑わされないようにしたいものです。
みなさんはどのようにお考えでしょうか
次回は
時事エッセー
です。
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コメント
確かに民主党政権は、フワフワしたリベラルの論理で右往左往した時代でした。言っている事、行っている事が矛盾していても、マスコミやリベラル派はそれを支持して歓喜しておりました。
この民主党政権時は、リーダー不在の暗黒時代とでも言うべき不幸な時代です。
「亡人は独を好む」を地で行っているようなものです。 -(国を亡ぼす君主は、独断を好むのみ)「荀子」- ついでに言えば、歴代の韓国のトップリーダーと酷似しています。
投稿: 渡邉啓二 | 2019年2月22日 (金) 16時39分
大事なことが、漏れていませんか?
東日本大地震と、原発災害。これこそ、悪夢のような出来事でした。まさに天譴、鉄槌が振り下ろされたのではないかと、戦きました。(地震直後の慎太郎も同種の発言)
さて、最長首相在職記録への日々を進んでいるお方の評価は如何。なにやら、「悪夢」というより「悪〇」のような・・・・。
「多くの人を短いあいだ欺くことはできる。
少数の人を長く欺くこともできる。
しかし多くの人を長いあいだ欺くことはできない」
リンカーン
投稿: kawaski akira | 2019年2月22日 (金) 10時21分