「憲法改正」案を比較してみよう!…①
“我が園に 梅の花散る 久かたの 天より雪の 流れ来るかも”
大伴旅人(万葉集)
この我らの集う園に梅の花が舞い散る――天から雪が流れ落ちてくるのだろうか…。
元号「令和」の元になった万葉集「梅花の歌三十二首」のなかの一首。天平二年(730)一月十三日、旅人邸で梅の花を賞美する宴を催した時、大宰府の官人ら総勢三十二名が梅の歌を詠んだものが万葉集に載りました。
今、令和の時代を迎え、国民の関心は何となく明るい国家の到来を予感し、改元の祝賀のムードに満ち溢れていますが、現実の厳しさは増すことはあっても減少することはないのではないでしょうか。
世界の政治、特に東アジア、中国(中共)、北朝鮮、韓国、そしてアメリカの動向に目を離すことはできません。
このような時、国内問題も難問が山積みです。「令和」の船出はまことに厳しいものと言わざるを得ず、わが国が世界に伍していくためには、国の背骨をしっかりと立てることが大切であり、その第1歩が憲法改正だと思います。
しかしながら、身の周りのミクロのお金のことには関心を示しても、依って立つ基盤である「憲法」の改正については理解がなかなか浸透していないように見受けられます。
先日、安倍首相が憲法改正の呼びかけをしましたので、改正の最も重要な条文について整理をしてみたいと思います。それは、現行憲法第9条の安全保障・防衛・自衛隊についての条文であり、現在公表されている憲法改正案と比較してみましょう。(安全保障・自衛隊・軍備のところに焦点を当てます)
【日本国憲法】(現行憲法・昭和22年<1947>・72年間改正なし)
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
【自民党憲法改正草案】(平成24年<2012>)
(平和主義)
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
(国防軍)
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
【読売憲法改正試案】(平成16年<2004>)
第11条(戦争の否認、大量破壊兵器の禁止)
(1) 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを認めない。
(2) 日本国民は、非人道的な無差別大量破壊兵器が世界から廃絶されることを希求し、自らはこのような兵器を製造及び保有せず、また、使用しない。
第12条(自衛のための軍隊、文民統制、参加強制の否定)
(1) 日本国は、自らの平和と独立を守り、その安全を保つため、自衛のための軍隊を持つことができる。
(2) 前項の軍隊の最高の指揮監督権は、内閣総理大臣に属する。
(3) 国民は、第一項の軍隊に、参加を強制されない。
【安倍首相改憲論】(自衛隊加憲論)
①9条1項 現行憲法(いわゆる平和主義)をそのまま
②9条2項 現行憲法(戦力持たず・交戦権認めず)をそのまま
③9条3項 自衛隊保有を明記する(…加憲)
これらを比較して、私の感想をのべます。
・自民党案と読売案とは似通っているように思えますが、自民党案の方が整然としており分かりやすいと思います。
・自衛隊については、平成30年の内閣府調査によれば、国民の89.8%が良い印象を持っていますが、憲法学者は違憲の存在として否定しています。国民と学者の乖離は明白。そこで、自衛隊及び安保法制(集団的自衛権行使)が憲法違反かどうかについての「憲法学者」に対するアンケート(平成27年<2015>朝日新聞)を見てみましょう。
【安保法制】(集団的自衛権行使)
① 憲法違反にあたる…………………………104人
② 憲法違反の可能性がある…………………15人
③ 憲法違反にはあたらない可能性がある…0人
④ 憲法違反にはあたらない……………………2人
⑤ 無回答 ……………………………………………1人
※122名中119名が違憲判断(97.5%)
【自衛隊】
① 憲法違反にあたる ……………………………50人
② 憲法違反の可能性がある …………………27人
③ 憲法違反にはあたらない可能性がある…13人
④ 憲法違反にはあたらない……………………28人
⑤ 無回答………………………………………………4人
※122名中77名が違憲判断(63.1%)
・現行憲法9条2項(戦力持たず・交戦権認めず)を日本語として素直に読めば自衛隊は違憲の存在となるでしょう。そこで安倍首相が憲法に自衛隊保有を明記したいと言う気持ちも考えは分らないことはないのですが、違憲と合憲が隣り合わせの条文…まさに政治論的な奇手、一考を要すのではないでしょうか。
・自民党は党是が『憲法改正』です。したがって、安倍自民党総裁が進めようとする「自衛隊保有の明記という加憲論」と「自民党憲法改正草案」を党の正式機関である“憲法改正推進本部”で合議し、早急に結論を出し、改憲のムードづくりに邁進すべきではないでしょうか。
・安倍首相の自衛隊保有という加憲論が、自らのレガシーづくり、私心に基づくものでないことを祈っていますが、果たして…。
・72年間も憲法改正に手を付けなかったために、わが国の安全保障には大きなガタが来ており、近隣諸国の侵略攻勢には耐えられないはずです。いつまでもアメリカにおんぶに抱っこ出来ない時が遠からず来ることをも覚悟しなければならず、今から態勢を整備することが必要ではないでしょうか。
・憲法は、日本人が読んで、見事な内容であるとともに、素晴らしい日本語で書かれていなければなりません。現行憲法の前文などは、内容はもとより翻訳調文章の空疎さが目立ち、違和感を懐かせます。改正に当たっては、真の“碩学”に文章を練ってもらう必要があります。占領憲法、押し付け憲法、翻訳憲法を脱する時が来ました。待ったなし、それが令和の時代だと思います。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回は
時事エッセー
です。
| 固定リンク
コメント