日本の世界競争力…実態は何位か?
“夏は来ぬ 相模の海の 南風に わが瞳燃ゆ 我がこころ燃ゆ”
吉井勇(明冶19~昭和35・歌人)
夏は来た。相模の海の南から吹き寄せる潮風を身に受ける時、我が瞳は青春の歓喜に燃え、我が心は溢れんばかりの若い情熱の血潮に燃え立つのだ…。
万物が燃え立つ夏の元気が漲る若さを詠んだ吉井勇24歳の時の歌です。人生には若さあふれる時があり、それをおのれの心の中に強く意識するならば、必ずや、人間として大きく成長していくことになるに違いありません。
そう考えれば、日本という国も心の若さを発揮しなければなりません。今、世界のなかでどのような位置を占めているのかを見ていきます。
国の力を比較するには、GDP、人口、領土・領海、軍事力、外交力、発展持続性、あるいは、経済力・政治力・文明力の総和、などいろいろあるでしょうが「競争力」の視点も重要だと考えます。
世界競争力ランキングと言えば、スイスの有力ビジネススクールの国際経営開発研究所(IMD・International Institute for Management Development)や、ダボス会議で有名な世界経済フォーラム(WEF・World Economic Forum)の調査レポートがあります。
【IMD・世界競争力ランキング総合順位】2019年
(カッコ内は前年)
1 (3) シンガポール
2 (2) 香港
3 (1) 米国
4 (5) スイス
5 (7) アラブ首長国連邦(UAE)
6 (4) オランダ
7(12) アイルランド
8 (6) デンマーク
9 (9) スウェーデン
10(14) カタール
‥‥‥
14(13) 中国
28(27) 韓国
30(25) 日本
32(43) インドネシア
このランキングを見た国内メディアは大騒ぎ。「日本の競争力は世界30位、97年以降で最低」「日本は30位で凋落止まらず」「ついに世界競争力30位に転落した日本」…という具合に、凋落、転落、深刻、最低、の悲観論一色のありさま。中身をざっと見ていきましょう。
対象は世界主要国63ヶ国・地域。235の指標。指標の71%は雇用統計や貿易統計などのデータから、29%は、マネジメント慣行・腐敗・適応性・アジリティ(状況対応への機敏性)などを経営者にアンケートしたものから。日本の経営者は常に弱気の発言をし勝ちであり、スコアは実態よりはかなり悪い数字になることは知っておく必要があり、統計とかランキングなどは、常に注意深く見て行かなければなりません。
項目別には、「インフラ」15位、「経済パフォーマンス」16位、「政府効率」38位、「ビジネス効率」46位、となっています。
実際には、30位というほど日本の国際競争力は低くなく、経営者が自らの弱みに危機感を持った結果がこの数字に表われたとみるべきです。
それでは、次に、世界経済フォーラム(WEF)のランキングを見てみましょう。
【WEF・世界競争力ランキング総合順位】2018年
(カッコ内は前年)
1位 (1) 米国
2位 (2) シンガポール
3位 (3) ドイツ
4位 (4) スイス
5位 (8) 日本
6位 (5) オランダ
7位 (7) 香港
8位 (6) 英国
9位 (9) スウェーデン
10位(11) デンマーク
11位(12) フィンランド
12位(10) カナダ
13位(13) 台湾
14位(15) オーストラリア
15位(17) 韓国
‥‥‥
28位(27) 中国
対象は世界140ヶ国・地域。98種類の指標でスコアを算出、12の柱項目(制度・インフラ・マクロ経済環境・健康と初等教育・高等教育と訓練・商品市場の効率性・労働市場の効率性・金融市場の洗練度・技術成熟度・市場規模・ビジネスの洗練度・イノベーション)で評価点が決定されます。
健康と初等教育1位、技術成熟度3位、市場規模4位、インフラ4位、市場規模4位、商品市場の効率性5位、イノベーション(技術革新)6位、と高ランクですが、労働市場の効率性は18位、制度は20位と低ランクです。
世界競争力を考えれば、最も重要な項目は「イノベーション(技術革新)能力」ではないでしょうか。「イノベーション能力」は、1位ドイツ、2位米国、3位スイス、4位台湾、5位スウェーデン、6位日本、となっています。
世界競争力ランキングで、IMDでは30位、WEFでは5位。こんなに大きな差異を見れば、ランキングを単純に信じては駄目だということにならざるを得ません。評価項目の違いや、人的要素による曖昧さによってランキングの差異が生じたのだと思いますが、この両方ともそれなりに意味を持っているのではないでしょうか。そう考えれば、競争力は」かなり減退してきているように思えます。
わたしは、今、わが国は、長期に亘る“政策不況”により企業の“ダイナミズム”が失われてしまったために、経済の停滞を来たしていると考えており、次回のブログで、驚くべきデータを基に平成30年間の経済停滞を振り返って見たいと思います。
みなさんは、わが国の世界競争力をどのように考えますか。一度、考えて見て頂けたらと思います。
次回は
時事エッセー
です。
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コメント
世界競争力ランキング,興味深く拝見しました。統計が視点により大きな差異があることが分かりました。
我が国の競争力の低下の一つの原因として,戦後の道徳心,道徳力のレベルの低下があるように思われます。
マネジメント研究の第一人者とされるアメリカのピーター・ドラッカーが注目したのが,「日本資本主義の父」とされる渋沢栄一であった。渋沢は『論語』を主とする道徳力が経済の発展に寄与するとして「道徳経済合一説」を説いた。もう一度,原点に返って再建する時機ではないでしょうか。
投稿: 安見隆雄 | 2019年6月29日 (土) 10時13分