中国「一帯一路」政策 … もんだい多発!
815回目ブログです
“朝まだき 嵐の山の 寒ければ 紅葉の錦 着ぬ人ぞなき”
藤原公任(平安中期・和漢朗詠集の編者)
朝がまだ早く嵐山のあたりは寒いので、山から吹き降ろす風のために紅葉が散りかかり、錦の衣を着ない人はいない…。
いよいよ紅葉の盛りを迎える季節になりました。今年は、コロナの部分明けで、いわゆる「紅葉狩り」を楽しもうとする人々が大幅に増えそうな予感がします。わが国では、野山に分け入って季節の恵みを探し求めることを広く狩りと呼び、古くから、紅葉狩り、桜狩り、潮干狩り、きのこ狩り、ほたる狩り、など、自然をそのまま味わってきました。今年こそは、久方ぶりに、ゆったりとした気分で情趣豊かな“紅葉狩り”を楽しみたいと思います。
さて、国際情勢は依然として混迷を極めていますが、先日、米国・バイデン大統領と中国・習近平主席がリモート会談を行い、台湾問題、人権問題、内政干渉など、喧々諤々、相互の主張を交わしました。今後、米中がどこまで歩み寄るかは定かではありませんが、双方とも、国内外で大きな問題点を抱えていることは間違いありません。
そのひとつとして、中国・習近平主席が鳴り物入りで展開してきている「一帯一路」政策が崩壊の道を歩もうとしている実態が明らかになりましたので、見ていきたいと思います。
中国はリーマンショックを乗り切るべく過剰投資した結果、過剰生産が生じ、そのはけ口として、習近平氏によって「一帯一路」計画を発表、それは同時に、世界権益の拡大という狙いも兼ねていました。
従来の融資は、中央銀行経由による低利・長期でしたが、「一帯一路」融資では、中国に一方的に有利な契約条件となり、融資契約書には“秘密条項”が強要されたのです。まさに、国際高利貸しというべきものであり、わが国のODA(政府開発開発援助)とはまったく異なります。したがって、中国が主導して創立したAIIB(アジアインフラ投資銀行)の国際金融業務はすべて失敗の烙印が押されていると言われています。
その実態について、米民間調査機関のエイドデータ研究所が調べた報告書をごらんください(9月29日)。
【中国の援助プロジェクトの支出額や負債額】
対 象 国 アジアやアフリカなど165カ国
期 間 2017年末までの18年間の拠出
件 数 13,427件
融資総額 8,430億ドル
隠れ債務 3,850億ドル
未返済率 45.7%
ものすごい調査力であり、驚嘆します、さすがにアメリカですね。と同時に、中後進国の隠れ債務の3,850億ドル、及び未返済率の45.7%に驚かされます。
対中債務の大きい国を挙げてみましょう(数字はGDP対比)。ラオス64%、コンゴ53%、アンゴラ50%、赤道ギニア50%、ジブチ49%。ラオスに至ってはGDPの64%ですから、これを日本に置き換えてみれば、550兆円×0.64%=352兆円となり、これはべらぼうな数字です。
ここまでくれば、無茶苦茶な貸し付けと言わねばなりません。さあ、中国は、習近平さんは、資金回収をどうするのでしょうか。過去の例を見れば一つの参考になるのではないでしょうか。それはスリランカ…!
2017年、同国南部のハンバントタ港について、スリランカ政府と中国企業の合意により、中国企業に対して港湾運営権及び港湾施設等が“99年間譲渡”されることが明らかになりました。まさしく、中国による『債務の罠:インフラ事業実施のために条件の厳しい借款を供与し、債務国が返済に窮することを利用して当該インフラの運営権等を取得する手法』の典型例。何せ、最高金利が6,3%ですから、返済も困難であり、まことにえげつない悪虐な手法と言わねばなりません。
世界は「一帯一路」に警戒感を露わにしています。オーストラリアは、昨年12月、外国関係法を成立させ、早速、ビクトリア州政府が締結した対中取り決めを廃棄しました。東欧では、チェコ、スロバキア、リトアニア、ラトビア、エストニア、ルーマニアも中国離れを加速。
加えて、今年9月、エイドデータ研究所が発表した報告によると、一帯一路プロジェクトのうち、実に全体の35%で環境汚染や汚職、労働違反などの問題が発生し、マレーシアでは総額116億ドル、カザフスタンで15億ドル、ボリビアで10億ドルものプロジェクトが中止に追い込まれたと言います。そして、同研究所は、今後、一帯一路は失速すると結論付けています。
EUも、イタリアは、G7参加国として初めて中国の「一帯一路」に参画する覚書を交わした国家ですが、ドラギ首相は6月13日、G7サミット閉幕後に記者会見し、中国について「多国間のルールを守らない専制国家であり、民主主義国家と同じ世界観を共有していない」と厳しく断じています。
状況の変化は著しく、6/12、主要7カ国(G7)首脳会議で、各国首脳は中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」に匹敵する途上国向けの新たなインフラ支援構想「Build Back Better World (B3W)」を導入することで合意、大規模なインフラ支援を途上国に提供することで、増大しつつある中国の影響力に対抗する狙いだ。(ロイター)
中国の「一帯一路」は事実上開店休業状態。G7が具体案を出せば中国のプロジェクトは崩壊への道を早めると思われます。
わが国では、中国のインフラ構想である「一帯一路」への参加をめぐり侃々諤々の議論が交わされ、大半が賛成論であり“バスに乗り遅れるな”の大合唱でした。反対論は、日本政府と元週刊東洋経済編集長・勝俣壽良氏のブログと産経新聞のみ。世界で参加しなかったのは日米両国だけであり、EUも見誤りました。そう考えると、政府の決断は大したものだと言わねばなりません。
わが国で一帯一路を声高に叫んだ人の一部を(敬称略)。二階俊博(早い方がいいい)福田康夫(反対する理由はなし)石原伸晃(最初から入った方が得)辻元清美(最終的には参加すべき)藤井裕久(インフラ産業にプラス・産業界は期待)蓮舫(日本は努力していない)江田憲司(今からでも遅くない)志位和夫(今からでも参加すべき)孫崎亨(愚かにもチャンスを逃がした・最終的には参加すべし)天木直人(今頃議論するこの国の救い難さ)田中均(早く参加し透明性ある銀行に)姫田小夏(したたかに加わるべきだった)瀬口清之(日本経済にもプラス)古賀茂明(AIIB騒動で負け惜しみを言うだけの政府)莫邦富(日本は流れを読み間違えた)
いやあ、お見事な言論に頭が下がります。偏ったイデオロギーに嵌ると目の前が見えなくなるのでしょうか。お互いに反省したいものです。…反省は猿でもすると言いますから。
みなさんは、どのようにお考えでしょうか。
次回は
時事エッセー
です。
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コメント
中国が国の名誉をかけて国際社会に向かって大々的に打ち上げた一帯一路という花火のその後を、一公立大学の調査機関がここまで調べ上げ続けたことに敬服するが、それ以上にこうした調査をなぜ日本の大学も含めた官民の研究機関はできないのか、それともやっている機関もあるが、学界も経済界もメディアも中国政府の機嫌を損なうような詳細なデータを世間に流すことは遠慮しているのだろうか。ここに挙げられたわが国の著名人たちは、どういう思惑があって、国内で露骨な思想統制、異民族弾圧をしている一党独裁国家の進める政策への積極的な参加を説いたのか、一人一人に訊ねてみたい。ヒトラーやスターリン・毛沢東のような非人道的な独裁国家であっても日本に経済的富をもたらす可能性があるなら進んで参加すべきだと、今でも本気で思っている人もいるだろう。
投稿: 齋藤仁 | 2021年11月20日 (土) 17時23分