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2022年3月 4日 (金)

ヨーロッパ「原発復活」へ!…ドイツは反面教師だ

 830回目ブログです

2022341

 “見わたせば 比良の高嶺に 雪きえて 若菜摘むべく 野はなりにけり”
                平兼盛(平安中期・三十六歌仙)

 遥か遠くを見まわすと、比良の峰々に積もっていた雪はもう消えて、京都の野はすでに若菜を摘んでよい時季になっているのだなあ…。

 比良の嶺は、琵琶湖西岸、比叡山の北に連なる山々で、冬の間は冷たい山風が湖面に吹き下ろし、嶺に積もっていた雪が消えると、麓の野は若菜を摘める好季節を迎えたことを詠った和歌です。平兼盛は、三十六歌仙のひとりとして和歌の名手であり、下記の和歌が百人一首に選ばれています。

 “忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで”
                       (百人一首)

 冒頭の和歌は、雪が消えた春の若菜摘みという、何とも穏やかな景色を映し出していますが、現実の国際社会は、それとは真逆、まさに風雲急を告げる侵略戦争の真っ最中、大国ロシアvs中堅国家ウクライナ、果してどのような結末を描くのか見当が尽きません。

 ロシアとウクライナの戦争は地政学にもとづくものでしょうが、その行く末を一番気にしているのはドイツではないでしょうか。と言うのは、ドイツはロシアから天然ガスを輸入し、それが国家のエネルギーの根幹の一部を占めるものになっており、戦争によって大きな影響を被り国民生活を危うくするからに他ならないからです。

 ここで、ヨーロッパの原発政策について考えてみましょう。

 フランス、フィンランド、チェコなどEU加盟国10カ国のエネルギー・環境大臣は、欧州の主要紙に10月11日意見広告を出し『原子力発電は、現在のエネルギー危機時に見られるような価格変動を起こさず、自給率向上にも温暖化対策にも資する低炭素社会には欠くことができない信頼できる資産であり、欧州の低炭素電源の半分を占めている。再エネも必要だが、安定的な供給はできない。』として、原子力発電がエネルギー危機、温暖化対策の解決策の一翼を担うべきと訴えました。

 ドイツば、2011年の東日本大震災の原発事故を受け、欧州連合で初めて原発ゼロ政策を打ち出した国であり、2011年に17基だったドイツの原発は14基が停止され、残る3基も今年末までに停止する見通しです。これで完全に『脱原発』となります。10年間で、電力に占める割合は22%→11%へ、一方、風力や太陽光などの再生可能エネルギーは17%→45%へ。ところが電力代が暴騰し、風と太陽に恵まれなければ深刻な電力危機が起こりうる事態も生じており、場合によってはブラックアウトもありうると考えられています。

 ドイツへの風向きが大きく変化。欧州連合の欧州委員会は1月1日、カーボンニュートラル達成に貢献する事業の基準を明確化する中に『原子力発電』を含める方針を打ち出しました。

 ・脱炭素化で世界に模範を示してきたドイツは、化石エネルギーからの排出をできるだけ早く削減しなければなりませんが、それに取って代わる風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーでは、ドイツ国内の電力需要を十分に満たせません。にもかかわらず、石炭火力発電の停止より先に、CO2排出の少ない原子力発電を停止しようとしているのです。なぜ石炭火力発電の停止より先に原子力発電を停止するのか、どうにも理解に苦しみます。ドイツは現実を無視し甘い理想に酔っているように思えてなりません。

 ・2021年12月に発足した社会民主党、緑の党、自由民主党の新ドイツ政権は、その連立協定に「脱原発を支持する」としており、新政権としては、脱原発が重要な政治的イシューとなっています。

 しかしながら、今、ガソリン価格は高騰、温暖化ガス排出量の少ない天然ガスの価格も30%以上高騰、ロシア産ガスの「ヤマル・ヨーロッパ」パイプライに問題が発生、そして、ロシアvsウクライナ戦争勃発。不安定な電力である太陽光・風力発電に翻弄された状態を自らつくり出してしまったドイツは、電力供給維持のためにロシア産ガスに翻弄されることになるのでしょう。エネルギーを独裁国家、強権国家に依存することは、究極の不安定要素を持ち続けることになることを肝に銘じなければなりません。

 ドイツが原発ゼロに邁進するとしても、ドイツの苦しいエネルギー事情の現実を見れば、EUがドイツに引きずられる状況にはありません。わが国も、ヨーロッパの現状を厳しく観察し、観念的な温暖化対策より、現実を見据えた説得力のある具体的策を講じていく必要があるのではないでしょうか。

 国中がブラックアウトの危機を迎えてようとしているドイツは、わが国にとっては反面教師。電力価格の安定化のためには、今や「戦略物資」になった天然ガスを必要としない『原子力』の活用を見直す時が来たのではないでしょうか。

 わが国は、東日本大震災以降、24基が廃炉となり、現存する原子力発電所は36基。そのうち、未審査の9基と、審査中の10基を除くと17基。実際に運転している原子力発電所は9基に過ぎません。残りの8基は安全規制をクリアしたものの、地元の同意が得られないなどの理由で運転できない状態となっています。

 このまま放置しておけばわが国の電力大変なことになります。そのためには日本のエネルギー政策の「再考」が急務ではないでしょうか。一つには運転可能な発電所を早期に稼働させること、二つには“クリーン”で“安全”で“経済的”な「新型原子炉」の開発に注力することです。そして、これらに政・官・民を挙げた真摯な取り組みを望みたいものです。

 新型原子炉は、小型モジュール原子炉(SMR)というもので、日本企業が参画しているのは、三菱重工/原子力機構/米テラパワー、米ニュースケール・パワー/日揮/IHI、米GE日立ニュークリアー・エナジー、などがあり開発を具体化させており、早ければ28年に完成するものもありと報じられています。

 原発は既に確証された技術であり、克服すべき課題も多々あるのですが、事故があったから使用ゼロではなく、事故の再発を徹底する方向で、技術が人間の生活に齎す恩恵に真摯に向き合っていくことが肝要ではないでしょうか。飛行機でも、自動車でも、ロケットでも同じだと考えます。

 一方、1/27、日本の元首相5人(小泉・細川・菅直人・鳩山・村山の各氏)は、EUの欧州委員会委員長に書簡を送りました。書簡のタイトルは「脱原発・脱炭素は可能です─EUタクソノミーから原発の除外を」であり、原発の中止を主張したものです。ヨーロッパは原発拡大に明確に舵を切りましたから、日本の一部の元首相の主張だからと言って取り上げることはしないと思います。

 その書簡の文章の中に(福島第一原発の事故により)「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」という文言が、現時点で、専門家により放射線の影響は考えにくいとの評価がなされているとし、風評被害を煽るものだとの抗議がなされました。(山口環境相・内堀知事より)

 これは、元首相組の勇み足でしょう。元首相は、ヨーロッパで反原発を唱えるのではなく、国内で原発推進論者に論争をいどむべきではないでしょうか。ヨーロッパの首脳に書簡を提出するのは全くの筋違いだと思います。

 エネルギー問題は国家の将来の発展に大きく関係する重要な問題です。観念論やイデオロギーに捉われることなく、現実に立脚して、真摯に議論をすすめるべきではないでしょうか。

 みなさんはどのように考えられますか。

次回は
時事エッセー
です。

 

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コメント

電気自動車は排気ガスを出さないし、水素自動車も大気を汚すガスは出さない。ガソリン車と比べればはるかにクリーンというイメージがある。しかし、電気自動車と水素自動車、ガソリン自動車、それぞれを製造工場での1台あたりの大気汚染度はどうなのか。また燃料となる電気、水素、ガソリンについて1台が1万キロ走った時にその燃料製造時の大気汚染度はどうなのか。それらを総合して比較したらどうなのか。原発の危険度が騒がれ続けてきたが、飛行機が墜落した時と、自動車が衝突した時では乗客の生存率ははるかに異なる。しかし過去10年の飛行機の墜落率と、自動車の衝突率、あるいは死亡率を、利用回数や利用時間を単位として一人当たりの確率を調べたらどうなのか。ほとんどの人がこうした客観的な情報を見たことがないし、それ以上に専門家も製造コストを比較したことはあっても、絶対的な安全度やクリーン度などを調べたことがないのではないか。脱炭素運動についても、車が出す排気ガスや工場の出す有色煙に私たちは敏感だが、それらが本当に地球温暖化を進めているのか。黒点など太陽自体の活動の方がはるかに意味をもっているのではないか。また地球が温暖化することと寒冷化することとどちらが人類にとって望ましいことなのか。ただ寒冷化したら世界の人々は温暖な住居を求め、農産物のための温室が世界中に激増することは想像できる。現在、脱炭素が世界の正義とされているが、脱炭素がそれほど大切なら、なぜ原発を利用しないのかわからない。大地震や津波の恐れのある海岸沿いに巨大な風力発電機を並べ,ビルや家屋の屋根に太陽光パネルを設置するならともかく、山を削って森林を伐採して太陽光パネルを設置することが、原発よりも地球を大事にしていることになるのか、まったく意味不明である。万人を納得させる説明は無理でも、せめて多数の国民が理性と合理性で納得できる説明をしてから政策遂行をお願いしたい。5人の元首相の凝り固まった言動には多くの日本国民が唖然としている、「あの程度の単細胞な人に私たちの国を託していたのか」と。

投稿: 齋藤仁 | 2022年3月 4日 (金) 08時38分

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