「ロシア」はどうなる…その挫折と憂鬱!
842回目ブログです
“世の中は なにか常なる 飛鳥川 昨日の淵ぞ 今日は瀬になる”
詠み人知らず(古今和歌集)
この世の中では、いったい変わらないものがあるのだろうか、いや変わらないものは何ひとつない。飛鳥川の流れも、昨日淵であった所が今日はもう浅瀬に変わっているのだ…。
あの大国と言われるロシアが、かつてのソ連の構成国であったウクライナへの侵略戦争で、これほど苦戦するとは、何がどうなったのでしょうか。ウクライナ及び欧米側が伝えるニュースとロシアが伝えるニュースには極端に差があり、どちらも、自己が優勢とプロパガンダしているように思えますので、冷静に見なければならないと思います。
・最新の局地戦での事実は、①アゾフスター製鉄所に留まっていたアゾフ連帯が製鉄所から去ったことと、②ウクライナ南東部の要衝マリウポリがロシア軍によって完全に掌握されたということです。これで一旦落ち着くことは考えられず、ますます戦争の長期化が見込まれるのではないでしょうか。
・そして、ここにきて、いよいよ、5月18日、フィンランドとスウェーデンの両国が同時に「NATO」への加盟申請を行いました。フィンランドとスウェーデンは、第2次大戦後の経験から欧米にもロシアにも与しない「中立の立場」を保ってきましたが、近年のロシアの危険な膨張政策に鑑み、このままでは国家の存立が危ぶまれるとして、NATOへの加盟を願い出たものだと考えます。
・いまや、「プーチンの退陣は必至」「ロシアの惨めな敗北」「ロシア経済の悲惨な末路」など、欧米メディアの声は厳しさそのもの、…何となく挫折感が漂います。果たしてそれが本当なのかどうか、ロシアの雰囲気、実態について覗いてみたいと思います。
・プーチン氏の体質は、KGB(現FSB:ロシア連邦保安庁)出身を色濃く示しており、独裁・専制・権威主義は疑うべくもありません。
歴史観は、英国の記者に「世界の指導者で最も尊敬する人物?」と尋ねられると即座に「ピョートル大帝」と答えたことに示されています。(ピョートル大帝は1672~1725、初代ロシア皇帝、近代化を推進し新首都ペテロスブルグを建設、スウエーデンとの北方戦争に勝利した1721年以降、ロシアは帝国と称す。)
これで分かるように、プーチン氏は自らを、歴代皇帝、スターリン等と並ぶロシア国家を体現する存在であることを強く意識しており、その行動原理は飽くなき「膨張主義」と「力の原理」を踏襲しているのです。
従って、今回のウクライナ侵略の根源には、ウクライナを「小ロシア」として併合した18世紀のエカテリーナ2世紀の「ロシア帝国の版図」こそが本来の姿だという信念があると考えられます。
・今年1月から3ヶ月間、ロシアから国外に出た国民の数が388万人にのぼったと報じられました。この中にはビジネスや観光などの国民の数字を含んでいますので、この数字をそのまま国外脱出者とみなすことは出来ませんが、それにしても膨大な数の出国者であると言わざるを得ません。
別の詳しい調査によると、ロシアのウクライナ侵略を機にロシアを離れた脱出者は30万人にも上ります。その86%が44歳以下。職種は、全体の3分の1がIT関連の人材、それ以外も企業のマネージャーや法律家、心療学者、デザイナー、コンサルタント、ジャーナリストといった、いわゆる頭脳労働者らに集中…。
“有能な人材”の流出は極めて深刻です。ロシア経済は、エネルギーや非鉄金属などの資源産業、宇宙開発や軍事以外には目ぼしい分野はなく、IT分野が国際社会で存在感を示しつつありましたが、今回の国外への大量の人材流出で発展の芽が摘まれることになることは言うまでもありません。(WEDGE Infinity 5/19より)
・ウクライナに侵攻したロシアからの頭脳流出、若者の海外脱出に対して、プーチン氏は極めて冷酷です。3月中旬の反政権派の出国をめぐるプーチン氏の発言をごらんください。
『社会の浄化に必要であり、ただ国家を強固にするだけだ』
『われわれは本物の愛国者と裏切り者を見分けることができる。
そのような連中は、誤って口の中に飛び込んできた“小バエ”のように、
路上に吐き捨ててしまえばいい』
ロシア国民を“小蠅”(こばえ)と呼ぶプーチン氏はロシア共和国の大統領に相応しい人物とは到底思えず、その異常な人格に驚きを隠せません。これでは、さすがに国内メディアによって洗脳されている国民も心が離れていくのではないでしょうか。国民に対して“小蠅”とののしるとは、どう考えても言葉が酷すぎます。
・5/23ロシアの国連代表部(在ジュネーブ)の露外交官、ボンダレフ氏はウクライナ侵攻とプーチン露政権に抗議するため、露外務省を退職、亡命すると発表。ボンダレフ氏の言葉を読むと、プーチン大統領への痛憤が伝わってきます。
「もううんざりだ。遅くなったが本日で退職する」
「2月24日(侵攻開始日)ほど国を恥ずかしいと思ったことはない」
「侵略戦争はウクライナ国民に対してだけでなく、繁栄を失う
ロシア国民に対しても犯罪だ」
「この戦争を思いついた人物は、永遠に権力を握り、豪華な宮殿に住み、
露海軍全体の金額にも匹敵するヨットに乗りたいと思っている。その
ためにはどんな犠牲もいとわない。既に両国民が何千人も亡くなった」
・欧米及び日本による制裁などは大掛かりなものになっています。
① 各国の中央銀行が保管するロシア中央銀行の外貨準備の凍結
② ロシアの主要銀行の国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除
③ プーチン大統領や主要閣僚、プーチン氏に近い新興財閥の資産凍結
④ ロシアの航空会社の締め出し
⑤ ロシアからのエネルギー輸入停止(米)及び依存減少(欧州)
⑥ カード会社ロシア業務を停止(ビザ・マスターカード)
⑦ 多国籍企業ロシア事業から撤退
⑧ ロシアがデフォルト(債務不履行)に陥る可能性強まる
上記の厳しいまでの制裁は、ロシア国民を塗炭の苦しみに追いやり、ロシア経済の悲惨な末路を暗示しています。制裁の抜け穴は中国と一部インドでしょうが、欧州との貿易の全てを肩代わりすることは困難と見られています。
ロシアとウクライナの戦争の決着はどうなるかは全く分かりません。しかしながら、現行の国家主権を覆す侵略を企てたロシアの「挫折」と「憂鬱」は、独裁専制の権力を誇ったプーチン体制を揺るがしているようにも見えます。
最後に、孫子の言葉から。
【兵の拙速を聞くも、未だ功久しきを睹(み)ず】
「短期決戦に出て成功した例は聞くが、
戦いを長引かせて成功した例は見たことがない」
戦争が長引くと、国力が疲弊します。その理由は、孫子によりますと、①軍隊、兵器、食料の輸送に膨大な経費を消費する、②商品の物価が上昇する、③国家の財政が逼迫する、④そのため、税金や賦役が重くなる、⑤その結果、人民の生活に窮乏を加え、国全体が貧しくなる。…まさしくロシアの将来を見透かしているようですが、いかがでしょうか。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回は
時事エッセー
です。
| 固定リンク
コメント
1980年代までの日本は自動車や造船、家電などの製造業で世界の最先端を行っていた。その品質を支えていたのは国民の高いリテラシーと勤勉さと、終身雇用と年功序列の職場環境にあった。しかし日本の産業技術を警戒したアメリカと、逆に安い労働力を生かした「世界の工場」をめざす中国の国策に敗れた。最先端の技術者は日本に倍する給与でアメリカで自由な研究を任され、中国では「日中友好」の名のもとに技術指導を行った。四十代・五十代の能力の高い技術者や研究者が年功序列の賃金に満足できない国際化時代に入っていた。時代環境によって「身動きできない時代」もあれば、「国外移住も自由にできる時代」もある。政府も企業も時代を読んだ政策をとらないと優秀な人材がすっぽり抜けて成長不能になる。19世紀末から20世紀前期にかけて欧州大陸を襲った反ユダヤ主義の嵐で、ドイツやロシアなどの金融や基幹産業の中枢にいたユダヤ人が数十万単位でアメリカに逃れた。第二次大戦前のドイツはアメリカに並ぶノーベル賞大国だったが、そのかなりの部分にユダヤ人が関与していた。それがすべてアメリカに流れて現在に至っている。ウクライナ侵攻でロシアが失った最大のものは国際的信頼度でも経済力でもなく、明日の国家を支える人材である。ロシアの科学技術は十年二十年の後には二流から三流へと墜落し、回復不能になるかもしれない。
投稿: 齋藤仁 | 2022年5月27日 (金) 10時08分