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2022年6月17日 (金)

『所得倍増計画』…岸田首相の信念なき政策を問う!

 845回目ブログです

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 “あぢさゐの 下葉にすだく ほたるをば 四ひらの数の そふかとぞみる”
                藤原定家(平安末期~鎌倉初期)

 紫陽花の下の方の葉に集まる螢は、四枚の紫陽花の花びらが添うように見える…。

 紫陽花の花は夕闇に見えなくなり、それと引き替えに螢が紫陽花の下葉に集まり、それが四枚の花びらが増えたように見える、その黄昏時の情景を美しく詠ったものです。

 自然界は春から夏へとその麗しい姿に変化を持たせ情緒の一端を感じることができますが、人間世界の、特に国際政治の複雑極まりない姿からは乾いた感情を抱くほかには何もないような状態です。

 しかし、よくよく見れば、世界は大きく変貌を見せており、時代は屈折点を迎えているのではないでしょうか。

 そんな時、岸田首相は「骨太の方針」「新しい資本主義」を閣議決定しましたが、詳しく見れば、問題点ばかりという有様です。岸田首相が就任以来発言してきたことが手の平返しになっていることに、その軽薄さと信念のなさを指摘したいと思います。新自由主義からの転換は無し、国民の財布事情を無視した1億総株主化策、格差是正のための金融所得課税強化を回避、そして、肝となる「令和の所得倍増」が何と「資産所得倍増」へ! と子供だまし的な手のひら返し。

 そもそも、岸田首相の「新しい資本主義」とはなんでしょうか。日経新聞が岸田首相を忖度して分かりやすく解説しています。

   ①  経済成長しつつ格差をなくしていこうとの意気込みで
   「分配と成長の好循環」の実現を目指す。
 ② 「株主至上主義」の是正
 ③ 「ステークホルダー資本主義」(従業員や、取引先、地域社会、
    環境など、あらゆる関係者に配慮した企業経営)を是とする。
 ④ 「資産所得倍増プラン」資産運用所得の重視。

 岸田首相は、国の基盤とも云える経済政策を、真剣に哲学的に内省したのでしょうか。思索があまりにも薄く見えて仕方がありません。例えば、岸田首相は就任当初から「所得倍増」を唱えてきましたが、いつの間にか「資産所得倍増」へと衣替え。本当に大丈夫でしょうか。

 ここで、かつて「所得倍増」を腹の底から唱え、その政策を「信念」をもって敢然と実行に移した池田勇人首相の勇気ある姿勢を振り返ってみたいと思います。

 所得倍増計画は、昭和35年(1960)年に池田勇人内閣が掲げた長期経済政策。10年間で国民所得を2倍にすると宣言し、高度経済成長を背景に国民1人当たりの消費支出は10年で2.3倍に拡大しました。立案は経済学者の下村治博士

 池田首相は、国民総生産(GNP)を10年以内に倍増させ、国民の生活水準を西欧先進国並みに到達させるという経済成長目標を設定し、完全雇用の達成、福祉国家の実現、国民各層の所得格差の是正を目指しました。さらに減税、社会保障、公共投資を三本柱として経済成長を推進。(∴ 大目標の設定、明確な項目、推進力の明示…参考になります!)

 「国民所得倍増計画」は、下村博士たち池田首相のブレーンがケインズ的思想を導入し、潜在成長力の推計をもとに、池田首相とのディスカッションを重ね、立案には約3年間を費やし、民間の有識者など各方面から1000人もの意見を聞いて練り上げたともいわれ、最後に池田内閣として政策体系にまとめられました。∴ 3年間・1000人・ディスカッション…この驚嘆すべき熱量!

 「いま月給をすぐ二倍に引上げるというのではなく、国民の努力と政策のよろしきをえれば生産が向上する。せっかく力が充実し、国民経済が成長しようとしているのに、これを無理に抑えている。いま日本でインフレの心配は少しもない」(池田勇人首相・日経・「私の月給倍増論」)

 当時、日本の経済成長は、戦後の復興段階を終えて「屈折点」を迎え、鈍化するのではないかと見られていましたが、池田内閣の「国民所得倍増計画」は、このような殻を打ち破ろうとする「積極的経済政策」だったのです。(∴ 時代に対する積極性!)

 「国民所得倍増計画」は、池田首相の迫力のあるキャラクターによるアナウンス効果もあり、国民に新鮮な響きとして受け取られるとともに、日本経済と国民生活がこれから10年間に、どこまで、どう、豊かになるのか、分かりやすく、かつ緻密に示したことは刮目に値するのではないでしょうか。

 池田首相が所得倍増のヒントを得たのは、一橋大学教授・中山伊知郎氏のエッセーにある「賃金2倍を提唱」だとされていますが、教授は「経営者は賃金のコストの面ばかりを見て抑えつけようとするが、賃金のもうひとつの側面である所得ををあげることこそが、かえって生産性を上昇させ労働争議のロスを少なくさせ、社会全体にとってよいものなのだ」と主張しています。(∴賃金は「コスト」と「所得」の両面を見よ!)

 昭和35年(1960)5年7月19日に池田は内閣総理大臣に就任し、9月5日に「所得倍増論」の骨子を発表。
 「今後の経済成長率を経済企画庁は年率7.2%といっているが、私の考えでは低すぎる。少なくとも年率9%は成長すると確信している」
 「過去の実績から見て、1961年度以降3ヵ年に年平均9%は可能であり、国民所得を1人あたり1960年度の約12万円から、1963年度には約15万円に伸ばす。これを達成するために適切な施策を行っていけば、10年後には国民所得は2倍以上になる」

 「所得倍増論」は、野党、エコノミスト、マスコミからは冷ややかに見られ “絵に描いた餅” であり、実現は不可能だと批判されました。一橋大学教授・都留重人氏は「日本経済は伸びているように見えるが、それは"回復であって"成長"ではない」などと「所得倍増論」は本質を見誤った“錯覚”と切り捨てたのです。

 「所得倍増計画」は、いろいろと批判を浴びましたが、結果として、国民1人当たりの消費支出は10年で2.3倍に拡大しました。

 「所得倍増計画」は、素晴らしい成果をあげたと思います。そのダイナミズムは括目に値する歴史に残る偉大さではないでしょうか。

 ところで、過去30年も経済が低迷しているにつけ、わが国のリーダーは歴史に学ぶ必要があるのではないのでしょうか。ざっと上記を見ただけでも、池田首相の国家、民族に対する揺るぎない信頼、3年間に亘る周到な立案ためのディスカッション、1000人を超す識者の知恵を結集する努力、…素晴らしい日本の叡智を誇りに感じないではおられません。

 翻って、岸田首相は、なぜ、国民の全てが歓迎、期待するであろう「所得倍増」を引っ込め「資産所得倍増」を打ち出したのでしょうか。全く理解に苦しみます。

 岸田首相には、財務省に目を向けるのではなく、国民に目を向け、郷里広島の大先輩でもあり、派閥・宏池会の創設者でもある池田勇人首相の「所得倍増」政策の実行に向けた不屈の信念に思いを馳せていただきたいと思います。

 何はともあれ、政治の責任において、強い信念のもと、積極的経済政策で国の難局を乗り切ってほしいと願うのみです。

 みなさんはどのようにお考えでしょうか。

次回は
時事エッセー
です。

 

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コメント

所得倍増に「資産」の言葉を加えるという姑息な手段でどんな角度からの批判にも応えられるという官僚好みの岸田首相の手法。他人に優る先見性も、問題の本質を把握する能力も乏しい首相だが、その鈍なる資質が、逆に嫉妬心と自己顕示欲の強い政権与党の議員たちの矛先を鈍らせた結果、党の総裁になることができた。国民投票のような一般大衆による選出となると善し悪しは別として、アピール力が強い人、問題があってもそれを帳消しする優れた発想力や指導力をもった人が選ばれるが、会社内や党内といった組織内からの選出となると、「組織の成長発展」よりも組織を乱さない「無難な人」が選ばれる。昭和の政治家・企業人と平成以降の彼らの違いはそこにある。そして現状の日本についていうならば、財務省は組織維持型で「無難な人、無難な政治」を望んでいる。だが日本を取り巻く国際環境は戦後昭和とも平成とも違う。東アジアでいつ戦争が始まってもおかしくなく、また日本領を奪いに行くぞと公言している隣国もある。さらに国内では少子高齢化の「人口減」が「できるだけ無難に」「現状維持さえできれば」という閉鎖的な空気をつくっている。「無難な道」を好む岸田首相は国防や経済についてこれから何らかの対策をうつだろうが、その対策が「一年遅れ、二年遅れ」になることは間違いない。その遅れが日本国にとって致命傷にならなければいいが。

投稿: 齋藤仁 | 2022年6月17日 (金) 08時43分

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