企業の四半期決算に異議あり!
843回目ブログです
“五月雨は 露か涙か 不如帰 わが名をあげよ 雲の上まで”
足利義輝(室町13代将軍)
降りしきる五月雨であるが、はかなく消える露なのだろうか。それとも、私の悔し涙なのだろうか。そのどちらにも思える。自分が死んだ後、高く鋭く鳴く不如帰よ、どうか雨雲を突き抜け、より高みへと飛翔して広い晴天まで私の名を広げておくれ…。
政敵に襲われ暗殺され、非業の死を遂げた13代将軍の辞世の句と言われています。
6月は、一般の企業であれば3月期末の決算を終え、株主総会が多く行われる月でもありますが、果して経営者として、余裕の笑みか、苦渋の顔か、株主からの審判が下される時でもあります。
わが国の上場企業約4千社は、以前は、中間期(6ヶ月)・通期(12ヶ月)の2回の決算を行っていましたが、現在では、3ヶ月・中間期・9ヶ月・通期の決算報告を行っています。即ち、年間4回も経営内容(決算・財務など)の開示を行なっているのです。この3ヶ月ごとの決算・財務などの内容を開示する制度を「四半期開示制度」と言います。
岸田首相は、1月の所信表明演説で、企業が3カ月ごとの業績などを公表する「四半期開示」では経営が近視眼的になると示唆し、その見直しに言及しました。それを受けて、金融庁の金融審議会は、開示義務の廃止までも一応検討はしましたが、「四半期報告書」を廃止し、「四半期決算短信」に一本化すること落ち着きました。抜本的な制度見直しにまで至らず、例によって中途半端のままとなりました。
それでは、「四半期開示」のメリット、デメリットを考えてみましょう。
●メリット
・財務や予算進捗状況をいち早く知ることができる。
・変化のスピードが速い現在、四半期ごとの情報は投資家に有益だ。
・企業の不正を早い段階で発見できる。
●デメリット
・中長期的な視点に立った経営が行われない。
・四半期決算作成の人的労働時間、監査料などの負担が大きすぎる。
・四半期ごとに利益を上げなければならないプレッシャーが大きい。
要は、経費のことは別にして、短期視点の投資家の肩を持つか、中長期視点での経営を求めるかの問題になると考えます。
ここで、有識者の発言を見てみましょう。
・サントリーH鳥井信吾副会長(大阪商工会議所会頭)
「四半期開示は全く必要なく、半期(中間期と通期)で十分」
「四半期開示では、やはり中長期の考えができなくなる。今儲かっている事業が赤字になったり、当社のビールのように昔、赤字だった事業が数十年たって黒字転換したりするケースもある。決算は半期か1年、あるいは3年という単位で見ないと本当の経営は出来ない」
・ウォーレン・バフェット氏(米国の著名投資家・オハマの賢人)
「企業が四半期決算に縛られると数字合わせという操作に走り、長期的な重要関心事に反した愚かなことをする」
・JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEO
「四半期の数字作りのため、CEOはマーケティング予算を削減したり、新規支店を断念したり、安売り競争を展開したりする。バフェット氏のおっしゃるように、数字操作は自己増殖するものだ」
英国やフランスが四半期開示を任意化しており、任意化後の英国では、財務諸表を含む四半期開示を継続している企業は7.8%に過ぎず、簡素化が進んでいると言われます。
関西経済連合会の松本正義会長(住友電工会長)は、四半期開示の義務付け廃止を求める緊急提言をまとめ「負担が大きすぎるので止めたい。英国やフランスが任意化する中、日本の政府は企業を信用していないことになる」と語気を強めて語りました。(5/11産経)
【四半期開示制度】に関する提言の主眼は下記の通り。
① 経営者や投資家の短絡的な利益志向を助長。
② 3ヶ月毎に膨大な人的資源を投入し、長時間労働是正の観点から問題。
③ 国際的に任意化される中、日本企業は詳細な開示を求められること
で不利な競争条件に置かれる。
わが国の識者は、外国の手法を金科玉条のように有難がり、そのまま導入しようとしますが、日本人には日本人としての特質がありそれに適合したやり方にしてゆくことが求められているのではないでしょうか。
実は日本でも2018年3月に経団連が(EUでの流れを受けて)四半期開示制度の見直しを要望しておりました。また、米国では2018年8月トランプ大統領が米証券取引委員会に、四半期決算開示を廃止した場合の影響を調査するように要請した経緯もあります。
この問題は日本社会としてどう捉えるのが正しい選択であるかを考えるべきであり、欧州が、アメリカがという浮付いた考えで取り組むべきではないと思います。
実際問題、企業人であれば、決算を3ケ月に1回行うとすれば、それが毎年であれば、どうしてもものの見方が短期的になるのは止むを得ないと思います。また、日本人は、もって生まれたDNAが農耕民族の濃い血を持っており、コツコツと辛抱強く育てていくことで大きな成果を得てきました。そう考えれば、「四半期決算」の制度は決して日本人の肌に合ったものとは言えず、日本人の叡智や能力や知的水準を存分に生かすことには繋がっていないのではないでしょうか。
今、わが国の経済が沈滞しているのは、国民の能力を活かすよりも引き下げることに力を入れているように見えてなりません。例えばいわゆる「働き方改革」にしても、真に、私たち国民の肌感覚に合ったものを志向しているとは思えず、逆に活力をそぐ側面があるのではないでしょうか。日本人は生来、労働は、大方は、仕事(Work)として捉え、苦役(Labor)ではなかったのです。
そう考えれば、私たちは、国民全体の本来の能力を最大限引き出すためにも、弊害のある、超短期の視点での「四半期決算」制度は廃止しなければなりません。
日本人には、日本人に合ったやり方があるのではないでしょうか。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回は
時事エッセー
です。
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