「リモート勤務」は根づくか?
850回目のブログです
“さいはひは 山のあなたに 住むといふ かの歌うたひ 山に往かまし”
吉井勇(1886~1960・劇作家)
「幸いは山のあなたに住むという」その歌を自分もうたって、その憧憬の山に行きたいものだ…。
『山のあなた』 カール・ブッセ(独) 訳:上田敏『海潮音』
山のあなたの空遠く
「幸」住むと人のいふ。
噫、われひとゝ尋めゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸」住むと人のいふ。
人間は、現実の生活の中には物足りないものを常に感じ、どこかにさらに良い生活が待っているように想像し、未知の世界に対しては、より一層限りない憧憬を抱くものです。そして、その幻を追って行き、山のあなたに幸福が住んでいるというのに対し、思わず心を注がれる心情を歌ったものであり、上田敏の訳で有名な詩歌です。
さて、新型コロナの拡大が収まったと思っていたら、7月に入り急速に感染が拡大し、分科会の尾身会長は、第7波に入ったとの認識を示しています。今後どのように展開してゆくのか予断を許しませんが、現時点での行動制限は必要ないとのことです。
新型コロナの蔓延が長期化し、企業はテレワーク(リモート勤務)体制を余儀なくされ、それなりの対応をしてきました。これだけの長期にわたる勤務体系の変更を経験しますと、テレワークのメリット、デメリットがかなり明らかになったものと思えます。これらの中から2~3の例を取り上げたいと思います。
■ ホンダは5月下旬にテレワークから原則出社へ移行する
「Hondaとして本来目指していた働き方を通じて変革期を勝ち抜くために、『三現主義で物事の本質を考え、更なる進化をうみ出すための出社/対面(リアル)を基本にした働き方』にシフトしていきます」…ホンダは2022年4月、国内営業部門の従業員向けに以上のようなメールを送付。
ホンダの三現主義とは「現場・現実・現物」を基本とする企業理念であり、これは対面でのコミュニケーションを重視したものであり、出社を前提とした働き方を意味します。
会社の判断としては、テレワークではコミュニケーションに齟齬を来たすため、対面のコミュニケーションの活性化を図り、『イノベーション』の “創出” を促すことが狙いだとしています。
トヨタや日産はリモート促進を取っているようですが、各社、自社の明確な方針を示して対処すればよいのであって、流行語の “働き方改革” のムードに惑わされないことが大切ではないでしょうか。
アメリカではテレワークを疑問視する企業が続出しています。米IBM、米ヤフー。最近では、電気自動車(EV)最大手のイーロン・マスク米テスラ最高経営責任者(CEO)が、5月末に幹部宛ての電子メールで「リモート(在宅)勤務は今後容認しない」と通告。マスクCEOは「在宅勤務はサボりの温床」と見ています。
例えば、社員がサボってもリモートでは勤怠管理が難しいことでもあり、象徴的な事例として「在宅勤務者のうち3人に1人が仕事中にお酒(最も多いのはビール)を飲んでいることです。」(アメリカ依存症センター2020年3月調査)。リモートでは全く管理されませんから飲酒など自由自在、なかなか自制できないものです。
さらに、米コロンビアビジネススクールと米スタンフォード大の共同研究で、「オンライン会議の有効性」についてのフィールド実験に基づいた研究が明らかになりました(4/47/Nature/夕刊フジ)。
「オンライン会議では、脇見をしただけでその共有環境から離れたことになる。そのため、オンライン会議に参加する人はたいてい、視線をスクリーンに固定する。これはアイデアの生成にも悪い影響を及ぼし、創造的なアイデアは生まれにくい」「Zoomでは、セレンディピティ(偶然の産物)が生まれることはない」
逆に「コンピュータのスクリーンを見つめる時間の方が長いので、オンライン会議では効率化が促進される可能性がある」「したがって、意思決定には優れている」
米国では、オフィス復帰の企業が多数出始めましたが、日本企業ではどのように進展していくのかを考えて見たいと思います。
まず、日本の職場では、「テレワークにすると生産性が落ちる」という問題を抱えていることに留意しなければなりません。なぜそうなのでしょうか。それは、わが国の雇用制度に関係するものであり、雇用には2つの型があります。
【雇用制度】
「ジョブ型雇用」 :「仕事に人をつける」
「メンバーシップ型雇用」:「人に仕事をつける」
わが国の多くの企業、官庁の現状の人事制度が「メンバーシップ型雇用」であり「ジョブ型雇用」ではないことです。そのために、業務の一環として「教える」という動作が非常に多くなります。「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」を通じて、新入社員はもとより、人事異動があればその都度、「教える」ということに対して、極めて多くの労力が注ぎ込まれるのです。
OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)においては、教える人と教わる人との濃密なコミュニケーションが期待されますが、オンラインで、果たして “ニュアンス” が伝わるでしょうか、…なかなか難しいと言わねばなりません。
それでなくても、わが国の諸々の制度が「グレーゾン」にあふれた仕組みになっている社会であるとすれば、たとえ精緻に作成されたマニュアルがあったとしても、本質はグレーの中にあると言えるかも知れません。そうであるとすれば、オンラインに大半を頼るのが妥当かどうか考えて見る必要がありそうです。
テレワークの専門家・東京工業大学・比嘉邦彦教授は「テレワークは3割弱くらいの企業で実施されているが、コロナ終息後には1割弱だろうと考えている。全体の1割が残れば上出来だと思う」と述べています。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回は
時事エッセー
です。
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