菊池 寛『大衆明治史』(復刻版)を読む!
855回目のブログです
山部宿禰赤人 不尽山を望める歌一首 あわせて短歌(万葉集)
天地の 分れし時ゆ 神さびて 高く貴き 駿河なる 布士の高嶺を
天の原 振りさけ見れば 渡る日の 影も隠らひ 照る月の 光も見えず
白雲も い去きはばかり 時じくそ 雪は降りける 語りつぎ
言ひ継ぎ往かむ 不尽の高嶺は
“田子の浦ゆ うち出てみれば ま白にぞ 富士の高嶺に 雪は降りける”
万葉集にある山部赤人の有名な和歌(長歌と反歌)。「天地創造の時代からずっと、太陽、月、雲、雪が、富士山の神々しい力のために負けてしまう。富士の高嶺がこのように立派であることを語り伝えて行こう。」神話の語り口を借りて、時間も空間も超越した富士山の荘厳な美しさ、神々しさを讃えた歌です。
富士山と言えば日本の象徴。富士山は、縄文、弥生の昔から平安、江戸、令和の現代に至るすべての時代に於いてその荘厳で神々しい美しさをみせてくれています。
そして、近代を代表する偉大な時代として「明治時代」を挙げたいと思いますが、明治の時代精神を理解するにふさわしい格好の本をもとめることができましたのでご紹介します。
書 名 『大衆明治史』【復刻版】(上巻・下巻)
著 者 菊池 寛
出版社 ダイレクト出版
価 格 上・下、各1980円+税
書 式 単行本(上224頁・下202頁)
(※ダイレクト出版公式サイトで購入すれば上巻のみ特別価格)
紀元前3世紀、秦の始皇帝は「焚書坑儒」なる蛮行を行いましたが、これは、儒教の書物を焼き払い、儒者を穴に生めて殺した事件です。驚くなかれ、それと同じことを、戦後、GHQは日本に対して行ったのです。そう、「焚書」です!
昭和3年1月1日から昭和20年9月2日まで、約22万タイトルの刊行物が公刊されており、その中から審査の結果7769点に絞り「没収宣伝用刊行物」に指定したのが、米国による「焚書行為」です。「皇室」「国体」「天皇」「神道」「日本精神」といったテーマの本はもちろん、およそ思想的には問題ないと思われる本も含まれています。宣伝刊行物の没収指定の舞台は帝国図書館内で行われ、「東京帝大」の尾高邦雄(社会学)、金子武蔵(倫理学)、牧野英一(法学)の学者らが深くかかわっていることに注目しなければなりません。
そもそも、一国の歴史、政治、思想、文明、そして宗教的な生きる源泉を、他民族から裁かれる理由はありません。したがって、日本は、戦争に敗れはしましたが「焚書」される謂われは全くないのです。
かつて戦前戦中の日本の中枢を担う指導層は、日本が中心となって世界をどのようにリードしていくかという「壮大な視野」と「先を見通す力」を有していました。しかしながら、GHQは強い言論統制である「焚書」を打ちだすことにより、その視野と力を失わせることに成功しました。現代日本の活力を欠く状況は、「壮大な視野」と「先を見通す力」を失ったことから生じていると考えられるのではないでしょうか。
その観点から、菊池寛の復刻版『大衆明治史』を繙いてみましょう。
【上巻】 建設期の明治
第1章 廃藩置県
第2章 征韓論決裂
第3章 マリア・ルーズ号事件
第4章 西南戦争
第5章 十四年の政変
第6章 自由党と改進党
第7章 国軍の建設
第8章 憲法発布
第9章 大隈と条約改正
第10章 日清戦争前記
第11章 陸奥外交の功罪
第12章 三国干渉
【下巻】 日本大陸に進む
第13章 川上操六と師団増設
第14章 北清事変
第15章 対露強硬論と七博士
第16章 日露開戦
第16章 児玉総参謀長
第18章 奉天会戦
第19章 日本海海戦
第20章 ポーツマス会議
第21章 明治の終焉
上巻の帯には、GHQが禁じた明治日本の真の姿、西郷隆盛、大久保利通、伊藤博文…激動の時代を駆け抜けた男たちは何を思い、何を目指して生きていたのか…。下巻の帯には、GHQが消した日露戦争の真実、乃木希典、児玉源太郎、金子堅太郎…世界史を変えた明治の主役たちは国家存亡の危機にどう立ち向かったのか…。とあります。
菊池寛は「文藝春秋」を創刊、さらに「芥川賞」「直木賞」を創設。自身も数々の名作を生み出した大作家でもあり、現代に続く文学界を築きあげた文壇の大御所です。
その大作家の著書『大衆明治史』が、戦後GHQにより発禁指定を受け、姿を消しました。この本は文字通り、明治時代の始まりから終わりまでの歴史を、大衆向けに平易な言葉で書かれた健全なものであり、軍国主義とは関係ありません。
どうしてGHQは、明治時代について書かれたこの歴史書を、日本人から隠したのでしょうか。
描かれるのは、激動の時代を生き抜いた、男たちの“人間ドラマ"です。西郷隆盛、大久保利通、伊藤博文、…あの時代を動かした人々は、なぜあれほど強かったのか。明治時代の英雄たちの、苦悩、葛藤、挑戦、…そのドラマが文豪・菊池寛の筆によって活写されており、まるで映画を観ているかのように当時の情景が浮かび上がります。
面白いことこの上なし、一気に読了。読後は気分爽快、精神が清らになるとともに心が熱く燃えてくるのを覚えました。そして、偉大な明治、骨太の明治の凄さに感動するとともに、先人が築いた「明治時代」を心から誇りに思った次第です。
日本人を骨抜きにしたかったGHQは、この菊池寛の天才的な描写力を恐れたのではないでしょうか。
司馬遼太郎は、国民的な人気を博した『坂の上の雲』において、国全体が、そこに生きる人々すべてが、目の前に浮かぶ雲(夢、目標)を見つめながら近代化への坂を上り、その実現に向けて突き進んでいった姿を歴史小説として描きました。
菊池寛の『大衆明治史』は 歴史書ではありますが、「坂の上の雲」に勝るとも劣らない “ もう一つの坂の上の雲 ” とも言える存在ではないでしょうか。
巻末の菊池寛の文章をお読みください
【明治逝く】
半世紀にも満たない僅かな時代に、日本は真に目覚ましい発達をとげた。
この愕くべき進歩の動因は不世出の英主にてましましたる 明治大帝を中心に、国民が真に挙国一致の団結の下に、勇往邁進したる「明治の精神」に帰することが出来る。
指導者も優れていた。彼らの眼光は常に世界の大勢を洞見し彼等の精神はいつも見事な調和を示して、凡そ極端に流れるということはなかった。外国文化を摂取するのに急であっても、日本の伝統精神がいつも基調をなしていた。
国民も勿論、進歩するだけの良い素質を沢山持っていた。偏することのない物の観方、あくまで進取敢為の精神は、明治全時代を通じて、どれくらい活気ある場面を展開したかしれない。
もちろん明治史にも未熟さもあるし、悲しみ、焦燥もある。しかし、外国が二百年から三百年もかかってやったことを、僅か五十年にして追い着こうというのであるから、それは恕すべきであろう。
敢闘の意気を満面にみなぎらせて、世界史の列強に伍して疾走するこのランナーに交替して、われわれは更に新しい勇気と決意をこめて、走りつづけなければならない。
さいごに、菊池 寛『大衆明治史』を強く推薦します。
みなさんはどのようにお考えでしょうか。
次回は
時事エッセー
です。
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コメント
日露戦争は有色人種でも白人諸国と同じように国政を運営できるし、産業や科学技術も駆使できることを世界に示した。アジア、アフリカの人々に「俺たちにもできる」事実を示したことは世界史の流れを変えた大事件であったことは間違いないだろう。だがもう一つ東アジア諸国にとっても日本人自身にとっても大切な事実がある。それはシナ(当時は清国)も李氏朝鮮も江戸の日本やベトナム(越南)も中華文明圏に浴してきた歴史をもつ。でありながら日本のみが白人のみしか理解できない・使いこなせない・作れないはずの学問や科学技術、軍艦や武器のほとんどすべてを習得し、駆使できた。中華圏の学問の本家のシナも、儒教の大家の多い朝鮮も無能に近かった。その理由、そこに日本の、日本だけが持つ長所がある。それは日本人という人間の特質ではない。日本列島に生まれ、日本の歴史文化に浴してきた、まさに日本の歴史文化が日本人だけの特質をつくり、それが西洋文化や産業技術を急速に吸収する要因となったのであり、西洋の自由主義や民主主義も同様に日本ならではの歴史文化がその要因となって「ワガモノ」とすることができた。未だに多くの中国人や朝鮮人・韓国人にはそれが理解できない、あるいは在日の彼らもうすうすそれに気づいても、それだけは認めたくない、という人が多い。「気づいても認めたくない」の姿勢が19世紀以降の混沌とした彼らの母国を作ってしまったのであり、これからもその姿勢が母国の発展を歪めることに気づけないかもしれない。ただ残念なことにインテリ日本人のなかにも自国文化の最強の力に気づけない人が最近増えている。
投稿: 齋藤仁 | 2022年8月26日 (金) 08時45分